2024年4月1日から運送業界の残業時間年間960時間が上限に

公開日:2020年3月22日 / 更新日:2022年1月20日

2024年4月1日から残業時間が厳しくなり、今のままだと運送事業者は立ち行かなくなります。4年後に向けて準備が必要です。ここ数年の大きな労働基準法改正点をまとめたので、しっかり理解して対策していきましょう。

【ご注意】本記事の内容についてのご質問はお受けしておりません。ご質問は労働基準監督署や社労士にご質問ください。

運送業の年間残業時間960時間2024年4月1日より

運送業専門行政書士鈴木隆広【トラサポ主宰】運送業専門行政書士「行政書士鈴木隆広」 神奈川運輸支局前、一般貨物自動車運送事業一筋16年の行政書士。平成30年1月には業界初の本格的運送業手続き専門書籍「貨物自動車運送事業 書式全書」が日本法令から出版される。【本部:神奈川県横浜市都筑区池辺町3573-2-301】

【2024年】時間外労働の上限規制(年960時間)の適用

2024年4月1日から自動車運転業務(運送業ドライバー)に年間残業時間上限960時間の規制が設けられます。

まずは労働基準法の大原則をおさらいしておきましょう。
労働基準法では基本的な労働時間は以下の範囲とされています。

労働基準法の基本労働時間

  • ・1日8時間まで(休憩時間1時間除く)
    ・1週間40時間まで

これを超過する労働時間のことを残業時間というわけです。

運送業ドライバーの特例ルール

これを基準に2024年4月1日からの残業時間のイメージを見てみましょう。

2024年4月以降残業時間イメージ

2024年4月以降残業時間イメージ

従って計算上は月平均80時間が目安となりますが、1カ月あたりの上限規定はありません。
ある月に突発的な仕事や繁忙期で月の残業時間が80時間を超えたとしても、要するに年間で960時間を超えないように調節すれば大丈夫です。

運転者の残業時間80時間規制には休日労働時間は含まれません。
運行管理者や事務職等のドライバー以外は80時間以内(休日労働含む)となっていることに比べると、ドライバーはまだ規制が緩いです。

休日労働を含まないとは言っても、結局1週間に1日は休日を与えないといけません。
また、休日の残業時間はカウントされないからと言って、休日にたくさん走ってもらおうとすると給料が休日割増の35%増となってしまいます。あまり現実的ではありませんよね。

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(参考)時間外労働の上限規制(年720時間)の適用

残業時間年間上限720時間規制は、2019年4月1日から大企業ではスタートし、2020年4月1日から中小企業でスタートします。

上限720時間制限は運送業にはしばらく当てはまりません。しかし、運送業もこの法改正に係り、2024年4月1日からは年960時間という上限が設けられるというわけです。

今回の法改正による以下の規制は、運送業ドライバーには適用されません。

2019年4月1日改正労働基準法の一般的規制(運送ドライバー除外)

      • ・月間残業時間100時間未満
        ・2~6カ月平均月間残業時間80時間未満
      • ・月間残業時間45時間超え6カ月以下

【2019年】年休5日取得義務化(年休が10日以上付与される労働者に限る)

有給5日以上取得義務規制は2019年4月1日からスタートしています。これに違反すると30万円以下の罰金となります。

労働基準法が改正され、2019年4月から全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。

(参考)厚生労働省ページ

【2020年】正規非正規社員の同一労働同一賃金

同一労働同一賃金のルールは、2020年4月1日から大企業で、2021年4月1日から中小企業でスタートしています。

正社員と非正規社員の待遇差?

正社員と非正規社員の待遇差

政府の働き方改革の一環の同一労働同一賃金が運送業ドライバーにも波及しています。争点は正社員と契約社員のドライバー、定年後継続雇用したドライバーとの給与・手当の差の合理性でした。
全国的に有名な2つの裁判例を見ておくことは会社を守ることにつながります。ぜひ就業規則等について社労士と相談してください。

労働新聞社【速報】ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件 最高裁判決下る

ハマキョウレックス事件判決文

長澤運輸事件判決文

これについてはまだまだルールの整備が追い付いていません。厚生労働省がガイドラインを出しているので詳しくはそちらで学んでおきましょう。
厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

【2023年】月60時間超の時間外割増賃金率引上(25%→50%)の中小企業への適用

2023年4月から、中小企業においても月60時間超の時間外労働への割増賃金率が50%となります。なお、月60時間までの時間外労働への割増賃金率は25%です。
深夜時間帯(22時~AM5時)の月60時間超残業であればさらに25%増で75%増になってしまいます。

具体的にいくら残業代が増えてしまうか計算してみましょう

たとえば月の基本給34.4万円。基本労働時間が172時間。残業時間が85時間の場合、60時間超が50%増しになると給料がいくら増えるか計算してみましょう。
(午後10時以降の労働はないとします)

【現在】

34.4万 ÷ 172時間 = 時給2000円

残業時間85時間 × 時給2000円 × 1.25 = 21万2500円 ・・・残業代

【改正後】 ※85時間を基本60時間と超過25時間に分けます。

残業時間60時間 × 時給2000円 × 1.25 = 15万円

60時間超25時間 × 時給2000円 × 1.5 = 75000円

15万 + 7万5000 = 22万5千円 ・・・残業代

【差】

22万5千円 - 21万2500円 = 12500円

これに社会保険・雇用保険の会社負担分が加算されるので地域によって異なりますが大体15%です。つまり、法改正の理由だけで1万2500円 × 115% = 1万4375円ほど一人当たり人件費がアップしてしまいます。

このようなドライバーが10人いたら月間14万3750円の人件費が増えます。年間172万5000円の人件費増です。

本記事のメインテーマの「月平均残業時間80時間」は80時間を守ればそれで良いだけではないということになります。
80時間では60時間を超えた20時間について残業代アップ率が50%にもなってしまうのです。

年間960時間上限 残業時間ルールに違反したときの罰則

年間960時間上限関連の残業時間ルールに違反すると「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」となります。

怖いことに、もしかしたら1人の違反につき1罰則適用の可能性も書かれています。実際の運用がどうなるかわかりませんが複数人数の違反の場合、そのダメージは会社の経営を揺るがす大きさになってしまいます。

解決への糸口:残業時間短縮への具体的対策

月間80時間ということは1日あたり4時間も残業できないわけです。余裕を考えると1日3時間残業の範囲で業務計画を立てなければいけないということになります。

ゴールは遠いかもしれませんが、正論での選択肢を挙げさせていただきます。2024年4月1日まで本記事執筆時点(2020年3月)で残り4年。その間に徐々に理想に近づけてホワイト経営と高水準給与と健全経営を実現していきましょう。

残業時間短縮への具体的対策

      • 適正運賃かつ適正時間の仕事に絞る(荷主・元請け企業との交渉。仕事の入り口の多様化による交渉力強化)
        一人のドライバーで1台を回すのではなく、2人で1台を回して車両稼働率を上げるとともに一人当たりの負担を減らす(走ってナンボの終焉を受け入れる)
      • 時短ドライバー(主婦層・高齢者)などで回る体制にする
      • デジタコを導入し労務管理を容易にする
      • IT技術を導入し管理業務・総務業務の効率化を実現する
      • 荷主企業と協力してIT技術等を導入し、荷待ち時間などを減らす
      • パレット輸送を増やし、運送業務効率化を実現する
      • 営業所間、他運送事業者間と連携して中継輸送を取り入れる
      • 運賃と別に高速道路代を必ずもらうようにして運転時間を少なくする

これらの残業時間短縮への対策は、運送業の現状を考えると「自社ではムリ!」と思われるかもしれません。
しかし、高効率の経営体制で利益が伸び、残業時間が少なくても給与を出せるようになれは、それにこしたことはありません!

トラサポの運送業専門家は、御社の現状に寄り添って時間をかけて、ルールに合わせられるよう一緒に歩いていきまます。
そんな顧問サポートをご希望の方は、ぜひご連絡ください。(お問い合わせお電話045-507-4081

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(その他参考資料)
時間外労働の上限規制について(厚生労働省)