一般貨物自動車運送事業の個人事業主がスムーズに法人成りする方法

公開日:2019年7月13日 / 更新日:2019年10月31日

個人事業主で今までやってきたけど、元気なうちに法人化して息子を役員に入れたい!法人の方が節税ができる!法人にして事業拡大したい!という方、会社の作り方、一般貨物許可譲渡の方法や注意点を運送業専門行政書士がすべて一挙に簡単詳細に解説

個人事業主から法人成り

運送業専門行政書士鈴木隆広【トラサポ主宰】運送業専門行政書士「行政書士鈴木隆広」 神奈川運輸支局前、一般貨物自動車運送事業一筋16年の行政書士。平成30年1月には業界初の本格的運送業手続き専門書籍「貨物自動車運送事業 書式全書」が日本法令から出版される。【本部:神奈川県横浜市都筑区池辺町3573-2-301】

 

個人事業主から法人成りする流れ

「法人成りするには会社を作ればいいんでしょ?」
それはわかるけど「運送業の許可」はどうすれば引き継げるの?
法人成りの流れと必要な期間を簡単に解説します。

<個人事業主の運送会社が法人成りする流れ>

  • 1.会社を作る
 普通は株式会社を作るでしょうが、もうちょっとコンパクトな合同会社でも大丈夫です。
2.一般貨物自動車運送事業許可の譲渡譲受認可申請をする
 後ほど申請に必要な書類等を解説します。必要書類を揃えて、営業所管轄の運輸支局に提出します。
3.役員法令試験に合格する
 申請した月の翌月以降の奇数月で登記されている常勤役員が法令試験に合格しなければなりません。個人事業主でずっとやっていたとしても、改めて運送会社の経営者としての法令知識が問われます。
  • 4.認可が下りる
 2.の申請から約3カ月で認可が下ります。(標準処理期間は1~3か月とありますが通常は役員法令試験もあるので、もっとかかります)
5.車検証の書換
 車検証書換に必要な書類を揃えて、法人名義の車検証に書き換えます。
6.譲渡譲受完了届を提出する
 譲渡譲受完了届を提出したら運輸支局での手続きは完了です。
この届出の際に新会社での社会保険加入証明等を添付します。
7.トラック協会適正化実施機関による巡回指導が来る
 新しい会社に対して巡回指導が来ます。(関東運輸局管内では、譲渡譲受完了届を出さなくても来ます) 

法人成りでも役員法令試験に合格しなければなりません。
準備を始めてから余裕を見て大体4か月~5か月くらいのスケジュールを考えるとよいでしょう。

会社の作り方

個人事業主でも仕事はできますが、株式会社もしくは合同会社を作ることで、信用性は上がり、組織化することでもっと大きな事業をすることができます。

ここでは大きな2つの選択肢になるであろう「株式会社」と「合同会社」について解説していきます。

株式会社と合同会社の違い

株式会社というのはよく聞くと思いますが、合同会社というのは聞きなれない言葉でしょう。どちらも“会社”という法人なのですが、以下のような違いがあります。

<会社形態によるメリットとデメリット>

  • 1.設立に必要な実費
 <株式会社>約20万円
 <合同会社>約6万円
2.設立後の負担
 <株式会社>決算の公告義務あり、役員任期があるため重任登記が必要
 <合同会社>決算公告義務なし、役員任期の定めなし
3.社会的信用
 <株式会社>大
 <合同会社>低い
4.銀行口座
 どちらも同様に作れます。しかし、どちらも都市銀行はともかく、信用金庫であってもどこでも口座を開けるわけではありません。

5.代表者の肩書
 <株式会社>代表取締役
 <合同会社>代表社員(名刺に”代表取締役”と書きたい方は株式会社にする必要があります)

普通は株式会社を作るお客様が圧倒的に多いです。
しかし、あのgoogleも合同会社なので、相手への信用を気にしないのであれば、合同会社でも全く問題ありません。

会社設立までの流れ

会社設立の流れ

  • ・次項で説明する社名等の情報を決定します
  • ・必要な書類を揃え、定款を作成します
  • ・公証公証役場で定款の認証をします(株式会社の場合のみ)
  • ・登記に必要な書類を作成します
  • ・法務局で法人設立登記の申請をします
  • ・約2~3週間後に法人登記完了
  • ・金融機関で法人の口座を作成

会社設立に必要なもの

【必要な情報】

    • ・社名
    • ・会社住所
    • ・事業目的(最低限、「一般貨物自動車運送事業」は入れましょう)
    • ・決算月
    • ・役員構成(1人で構いませんが、登記される役員が法令試験を受験する必要があります)
    • ・資本金額(何円でも構いません)

 

  • 【必要なモノ】

  • ・法人の実印となるハンコ
  • ・発起人(出資者)の印鑑証明
  • ・役員となる方の印鑑証明
  • ・資本金となる現金預金

これらを準備すれば、専門の行政書士や司法書士に依頼すれば法人設立をしてくれます。

会社設立までに必要な期間

定款の作成~認証まで最短で数日。
法務局への登記は司法書士の仕事ですが、申請書類作成~登記完了まで2週間~3週間程度。

法人謄本イメージ

法人謄本イメージ

さぁ、法人の登記が終わったら、いよいよ一般貨物自動車運送事業の譲渡譲受認可です。

許可の譲渡譲受認可申請の方法

一般貨物自動車運送事業の許可を、個人から法人に譲渡する場合、国土交通省から譲渡譲受の認可を受けなければなりません。

譲渡譲受認可申請書はとてもボリュームが大きく、新規許可と同等かそれ以上の難易度となります。

貨物自動車運送事業施行規則第17条より抜粋

  • 一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受けの認可を申請しようとする者は、次に掲げる事項を記載し、かつ、当事者が連署した事業の譲渡譲受認可申請書を提出しなければならない。
  • 一   譲渡人及び譲受人の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
  • 二   譲渡し及び譲受けの価格
  • 三   譲渡し及び譲受けの予定日
  • 四   譲渡し及び譲受けを必要とする理由
  • 2   前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
  • 一   譲渡譲受契約書の写し
  • 二   譲渡し及び譲受けの価格の明細書

申請先はどこの役所?

許可を受ける申請者の営業所を管轄する運輸支局の輸送窓口に申請します。

譲渡し及び譲受けの価格

許可自体の売買価格です。無償でも構いません。
許可自体の売買価格については「許可の売買価格」にて詳しく解説します。

譲渡譲受契約書

許可を譲渡し譲受する契約書を結ばないといけません。
サンプルを掲載します。

一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受け契約書

譲渡し及び譲受けの価格の明細書

許可や車両、什器等、運送事業に関わる物品等の名称と価格明細を作成します。

譲渡譲受の認可要件は?

譲渡譲受の認可申請では、譲受する方(許可をもらう方)が、新規許可を受けるのと同等の要件をクリアしなければなりません。
標準処理期間は申請から1~3か月とされています。(実際は3~4か月ほどかかります)
運行管理者、整備管理者、5台以上のトラック、営業所、車庫等の確保、資本要件等すべてをクリアし、また役員法令試験も合格しなければなりません。
※中国運輸局だけは、なぜか資本要件が求められていません。

車検証の書換

譲渡譲受の認可が下りたら、個人事業主から法人に名義変更をしなければなりません。

車検証名義変更に必要な書類

  • ・事業用自動車等連絡書
  • ・車検証原本
  • 【個人】
  • ・印鑑証明(原本3か月以内)
  • ・委任状(実印押印)
  • ・譲渡証明書(実印押印)
  • 【法人】
  • ・印鑑証明(原本3か月以内)
  • ・委任状(実印押印)

法人成りすることで新たに発生する負担・デメリット

貨物自動車運送事業法関連における一般貨物自動車運送事業者としての義務は個人でも法人でもまったく変わりません。

社会保険について、個人事業主の場合、従業員が5人以上の場合に加入義務がありました。
法人の場合は、従業員が5人未満でも社会保険加入義務があります(たとえば役員3名で運転者従業員3人という場合)。

法人の場合、利益が出なくても、毎年の法人住民税の均等割りを7万円納めなければなりません。

個人事業主だった場合、確定申告はご自身やご家族でできたと思いますが、法人の確定申告はとても複雑でご自身で行うのはとても大変でしょう。
税理士に依頼する場合、それだけ外注費がかかります。

節税については、個人事業主の場合で年間500万円ほどの利益が出ている場合は、法人成りした方が様々なメリットが出てきます。

法人成りした場合のメリット

法人成りすると様々なメリットがあります。

これらを考えれば、先ほど解説した負担など簡単に吹っ飛びます。

対外的な信用度が全然高い

事業規模向上!!

信用度向上!!

個人の「〇〇商店」というところと「株式会社〇〇トランスポート」が並んでいるとします。
ご自身が仕事を依頼するときのことを考えてみましょう。
やはり株式会社の方がなんとなく信用できませんか?

法人化するということは、組織になる準備が整ったということです。本当の経営者になるということです。
それにより、社員の福利厚生を厚くすることもできますし、会社としてのブランディングも更に強める選択肢は増えていきます。
「会社にする」ということは、それまでとは全く次元が異なるステージです。
会社一丸となり、物流の一翼を担う組織を遠慮なく作っていきましょう。

ドライバーの採用がしやすくなる

信用が向上するということは、求人に応募する人から見ても同じことです。

個人の「〇〇商店」というところと「株式会社〇〇トランスポート」が求人誌で隣同士、同じ条件で並んでいたら、どちらに応募しますか?

家族も鼻が高い

お子さんが「うちの親は社長なんだ!」と言う、奥さんが「私は社長夫人だわ」と言う。
それってどうでもいいと言えばどうでもいいことですが、本人たちは結構鼻が高いものです。
これは意外と大きなメリットだと思いませんか?

うちのお父さんは社長!!私は社長夫人

給与所得控除の恩恵を得られる

個人事業主の場合、年末に最終的に残った利益に対して所得税がかけられてしまいますが、法人から役員報酬を受ける場合は「給与所得控除」を受けられます。

単純な比較はできませんが、個人事業主の場合の利益が600万円の場合と、役員報酬で600万円をもらう場合は、約60万円ほどの節税となります。

最初の2年間は消費税を払わなくて済む

個人事業主のときに支払っていた多額の消費税。
法人でも当然、消費税を支払う必要がありますが、設立して2年間は消費税を納める必要がありません。
これはかなりの節税効果があります。

退職金を経費にできる

個人事業主は経費として退職金を支払うことはできませんが、法人から役員に対する退職金は認められます。
退職金は普通の所得より税率が格段に低いです。
引退するときのことを考えると、とても大きなメリットです。

様々な保険で節税対策が可能

全額損金となる節税保険は国税庁によりかなりの制約を受けることとなりましたが、個人事業主では節税できない保険がたくさんありますので、税理士や保険会社と相談して、適切な保険に入ることで節税と経営の安定を向上させることが可能です。

まとめ

個人から法人成りするのはそれほど大変なことではありません。
しっかりした行政書士に依頼すれば5~6カ月でスムーズに終わります。
個人は当然いつか寿命が来ます。
そのときにあたふたするよりは、余裕のあるときに法人にしておけば、経営者交替の際に役員変更という簡単な手続きだけで済みます。
なにより法人成りすることで「株式会社」と名乗ることができ、大きな会社とだって堂々と対等に勝負ができるのです!!

行政書士

法人成りをご検討の方はぜひ信頼できるトラサポ行政書士にご相談ください!!