日本一詳しく!貨物自動車運送事業の監査と巡回指導、行政処分について行政書士が完全解説3〜行政処分編(2)〜
運送事業は何十トンの鉄の塊を毎日何十台も走らせます。何より大切なのは“安全”です。事故をしたりすると、運輸支局が監査にきます。車両停止処分や場合によっては営業停止にもなりかねません。監査と巡回指導の対策をしたい方は必見です。
【トラサポ主宰】運送業専門行政書士「行政書士鈴木隆広」 神奈川運輸支局前、一般貨物自動車運送事業一筋16年の行政書士。平成30年1月には業界初の本格的運送業手続き専門書籍「貨物自動車運送事業 書式全書」が日本法令から出版される。【本部:神奈川県横浜市都筑区池辺町3573-2-301】行政処分編(2)
行政処分となると何が起きるのか?
行政処分はトラックを止められるだけではありません。
その後もいろいろと支障が生じるのです。
処分日数制度
違反項目により基準日車が決められています。監査で違反が指摘されると、その違反内容に対応した処分日車数が課されます。
処分日車の意味は次の通りです。
・30日車 = 1台のトラックを30日動かせなくなるという意味
(建設業で言う人工(にんく)と同じような考え方です)
受けなければいけない行政処分日数は「【別表】(貨物)違反事項ごとの行政処分等の基準」で定められています。
例えば、過積載の場合の処分日車数を見てみましょう。
過積載の処分日数(【別表】(貨物)違反事項ごとの行政処分等の基準より)
- ・過積載の程度が5割未満のもの 10日車×違反車両数
- ・過積載の程度が5割以上10割未満のもの 20日車×違反車両数
- ・過積載の程度が10割以上のもの 30日車×違反車両数
点呼の未実施の場合はこのように定められています。
点呼実施違反の処分日数(【別表】(貨物)違反事項ごとの行政処分等の基準より)
- ・点呼100回につき 未実施19件以下 警告
- ・点呼100回につき 未実施20件以上49件以下 10日車
- ・点呼100回につき 未実施50件以上 20日車
アルコール検知器の備え義務違反は、単独ではとても大きく60日車です。
大きな処分日数になるよくある違反が、車両台数が多い事業者での3カ月定期点検未実施違反です。
3カ月定期点検未実施違反の処分日数(【別表】(貨物)違反事項ごとの行政処分等の基準より)
- ・1年間の未実施回数 未実施1回 警告
- ・1年間の未実施回数 未実施2回 5日車×違反車両数
- ・1年間の未実施回数 未実施3回以上 10日車×違反車両数
- ・12月点検整備の未実施 10日車×違反車両数
50台持っている事業者が3か月点検をまったく実施していなかったら、10日車×50台=500日車です。
違反点数も50点となり、あと1点(=10日車)の違反で一発事業停止となってしまうほどです。
当然ですが、違反項目が増えれば増えるほど、合計の処分日車数は増えます。
再違反、累違反とは?
また、違反には「初違反」「再違反」「累違反」があります。
再違反:3年以内に同じ違反をもう一度すること。処分日車が初違反の約2倍となります。
累違反:3年以内に同じ違反を2度以上すること。処分日車が初違反の約4倍となります。
違反を指摘されたら、絶対に次に同じ違反をしないように徹底的に改善しましょう。
違反点数制度
行政処分10日車につき1点(10日車未満切り上げ)が事業者ごとに、運輸局管轄区域単位で累積されます。
さきほどの1発30日営業停止処分となった場合は、その違反事項の数×30点が累積されます。
違反点数はその点数ごとに取得した時点から3年間消滅しません。
しかし、行政処分の日以前の2年間に行政処分が無かったり、行政処分の日から2年間行政処分を受けなかったりすることで、2年間で消滅します。
ただし、行政処分を受けた営業所を廃止してしまうと、そのメリットは消滅してしまいます。
また、Gマーク取得営業所は3年間の消滅期間が、2年間違反点数の付与がない場合、当該違反点数が消去されるというメリットがあります。
法人を合併や分割した場合は、その新会社に違反点数が引き継がれます。
車両停止処分
監査時の違反内容による処分日車数の合計が決まると、その処分日車数合計と車両台数ごとに以下のように台数が指定されて、トラックを動かせなくなります。
トラクタとトレーラは1セットで1台分として計算されます(残念ながら2台とはカウントされません)。
具体的には、車検証を返納し、ナンバープレートを外して運輸支局監査担当に渡さなければなりません(ナンバー領置(りょうち))。
【 処分日数と台数による同時に止められる台数 】
合計処分日数と対象営業所所属車両数によって、一度に止められる車両数が決められています。
止められる台数の最高は合計車両台数の5割までです。
- 保有車両台数が10台以下
- 合計処分日車数 60日車以下:1両 61~80日車:2両
- 保有車両台数が11~20台
- 合計処分日車数 10日車以下:1両 11~60日車:2両 61~80日車:3両
- 保有車両台数が21~30台
- 合計処分日車数 10日車以下:1両 11~30日車:2両 31~60日車:3両 61~80日車:4両
- 保有車両台数が31台~
- 合計処分日車数 10日車以下:1両 11~30日車:2両 31~60日車:3両 61~80日車:5両
- ※81日車以上は一律で複雑な計算がありますが割愛します。
合計車両台数の5割までとめられるのは、81日車以上の一定条件の場合のみです。
停止される車両は事業者で指定できるのか?
昔は事業者が停止されるトラックを指定できることもありましたが、今は難しくなり、現在はほとんど融通が利きません。
【 停止車両の指定順序 】
-
- 以下の順番で1から優先的に適用されます。
- 1.違反事業者の違反営業所等の違反車両
- 2.違反事業者の違反営業所等の違反車両と初度登録年月及び最大積載量が同等の車両
- 3.違反事業者の違反営業所等の配置車両のうち、行政処分の実効性が確保できるものとして、地方運輸局に置く貨物自動車運送事業関係行政処分審査委員会で決定した車両
そして実際には、監査での違反事項が多い対象の車両が止められます。
要するに、Aというドライバーが拘束時間違反となり、違反点数が大きな割合を占める場合、Aが乗っている車両が止められる可能性が多いということです。
事業停止
事業停止とは対象の営業所で「なにも運送事業の仕事をしてはいけない状態にする」ということです。
トラックを動かさなくても「利用運送」の仕事ですらすることは禁止されます。
事業停止となったら、もう事務所の電話は出ても掛けてもいけないと思った方がよいくらいです。
やっていいのは、全然別の事業か総務経理などのバックオフィスの仕事だけです。
中でも、「これをやったら一発営業停止」というものがいくつかあります。
しかも30日間!!
これらの点はなによりも優先的に改善していきましょう!!今すぐに!!
【 一発30日事業停止の違反事項 】
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- ・貨物自動車運送事業の事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準が、著しく遵守されていない場合
- 未遵守が1ヶ月間で計31件以上あった運転者が3名以上確認される かつ 過半数の運転者について告示に規定する拘束時間の未遵守が確認された場合
- ・全運転者に対して点呼を全く実施していない場合
- ・営業所に配置している全ての事業用自動車について、3か月定期点検整備を全く実施していない場合
- ・整備管理者が全く不在(選任なし)の場合(特段の理由(整備管理者の急死、急病等)もなく選任を怠っていた場合は許してもらえる場合もあります)
- ・運行管理者が全く不在(選任なし)の場合(特段の理由(運行管理者の急死、急病等)もなく選任を怠っていた場合は許してもらえる場合もあります)
- ・許可の名義貸しをしていた場合
- ・許可事業の貸渡し等を行っていた場合
- ・国土交通省による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述を行った場合
「全く」とあるのは、期間が書いていないので、どのくらいの期間について検査するのか決まっておりませんが、普通に考えて監査で重点的に帳簿を見る直近1カ月は少なくともカバーしている必要があるでしょう。
その他、累積違反点数により、以下のように事業停止の基準が定められています。
累積違反点数による事業停止の基準
今の持ち点数により、事業停止に至る次の違反日車数が異なります。
ここでいう「管轄区域」とは「一つの運輸局(例:関東運輸局)」内の全営業所のことです。
- (1)一の管轄区域に係る累積点数が30点以下で、270日車以上の処分日車数を受けた場合
- 【処分対象営業所】
その違反営業所のみ
【受けた処分日車】
270~359日車:3日
360~499日車:7日
500日車~:14日 - (2)一の管轄区域に係る累積点数が31点以上で、180日車以上の処分日車数を受けた場合
- 【処分対象営業所】
その違反営業所のみ
【次に受けた処分日車】
180~269日車:3日
270~359日車:7日
360~499日車:14日
500日車~:合計81点となるので許可取消となります - 累積点数が51点以上80点以下の場合
- 【処分対象営業所】
当該違反営業所等の所在する管轄区域内の全ての営業所((1)及び(2)の処分対象営業所を除く。)
【次に受けた処分日車】
180~269日車:3日
270~359日車:7日
360~499日車:14日
500日車~:合計81点となるので許可取消となります
その他、酒酔い運転などの場合は事業停止処分日数が加算されることもありますが、とてもたくさんあるのでここでは割愛します。2020年11月27日からは「妨害運転(あおり運転)」についても加算対象違反として追加されました。
許可の取り消し
違反点数が81点溜まってしまうと許可が取り消されます。その他さまざまなきっかけで許可が取り消されることがあります。
許可が取り消されてしまうタイミング
その他、事業停止処分を受けたにも関わらず3年以内に同一の違反をした場合などもありますが、とてもたくさんあるのでここでは割愛します。
運行管理者資格者証の返納
行政処分を受けたからと言って、全てのケースで運行管理者資格者証の返納命令が出されるわけではありません。
あくまで安全運行に関わる違反が大きい場合にのみ運行管理者資格者証返納命令が出されます。
複数の運行管理者が選任されている営業所については、統括運行管理者の資格者証が返納させられます。
具体的には以下のケースで返納が命じられます。
運行管理者資格の返納命令のきっかけ
- 運行の安全確保に関する違反が120日車以上の場合
- 運行の安全確保に関する違反(乗務時間が著しく違反している、点呼を全く実施していない)の各事項に対する基準日車等の合計が120日車以上の行政処分が下された場合は、運行管理者資格を返納させられます。
- 運行管理者が以下のいずれかを行った場合
- ・事業用自動車を運転した場合において、酒酔い運転、酒気帯び運転、薬物等使用運転、無免許運転、大型自動車等無資格運転又は救護義務違反を行った場合
・運行の安全確保に関する違反の事実若しくはこれを証するものを隠滅し又は改ざんを行う等これを疑うに足りる相当の理由が認められる場合。 - 以下の違反行為を命じ、又は容認したとして都道府県公安委員会から道路交通法通知等があった場合
- 事業用自動車の運転者が過労運転、酒酔い運転、酒気帯び運転、薬物等使用運転、無免許運転、大型自動車等無資格運転、過積載運行又は最高速度違反行為を引き起こした場合。※2020年11月27日から「妨害運転(あおり運転)」追加予定
- 運行管理補助者が、運転者が以下の違反行為を引き起こすおそれがあることを認めたにもかかわらず、運行管理者への報告を行わず、又は運行管理者の指示に従わずに、当該違反行為を命じ、又は容認したとして都道府県公安委員会から道路交通法通知等があった場合
- 事業用自動車の運転者が過労運転、酒酔い運転、酒気帯び運転、薬物等使用運転、無免許運転、大型自動車等無資格運転、過積載運行又は最高速度違反行為を引き起こした場合
安全な運行の責任者である運行管理者が上記のような行為を行っているのであれば、運行管理者資格者証は返納となって当然でしょう。
行政処分を逃れることはできるのか?
ある営業所でトラックが止められてしまうのであれば、そのトラックを他の営業所に移してしまえばいいのでは?と考えてみましょう。
しかし、それはうまく行きません。
行政処分は追いかけてくる!!
- 当該違反行為に係る行政処分等を受ける前に、違反営業所に所属する事業用自動車を当該事業者の他の営業所に移動し、違反営業所の事業用自動車の数を減少させている場合(違反営業所が廃止された場合を含む。)は、違反営業所(廃止されたものを除く。)及び事業用自動車の移動先営業所に係るものとして取り扱うものとする。
要するに、移動させた営業所でも行政処分が下されてしまうということです。
また、営業所を廃止してしまえばいいのでは?と考えてみましょう。しかし、それもうまく行きません。
なぜならば、以下のようなルールがあるからです。
行政処分は追いかけてくる!!
- 違反営業所が廃止された場合は、次に掲げる営業所に係るものとして取り扱うものとする。
(1)廃止された営業所と同一の運輸支局が管轄する区域に所在する営業所のうち廃止営業所に最寄りのもの
(2)廃止営業所と同一の地方運輸局の管轄区域に所在する営業所のうち廃止営業所に最寄りのもの(1に該当する営業所がない場合に限る。)
(3)廃止営業所に最寄りの営業所(2又は3に該当する営業所がない場合に限る。)
同一支局管轄内(同一都道府県内と考えてよいです)に他の営業所があれば、その営業所に行政処分が下されます。
同一都道府県に他の営業所がなければ、運輸局の管轄まで範囲が広がります。
それもなければ、全国範囲で最も距離が近い営業所に行政処分が下されます。
「もし他の営業所がなくて、営業所が本社営業所1カ所だけだったら?」
1カ所しか存在しない営業所を廃止することイコール事業廃止ということです。
※事業廃止=会社として運送事業許可を返納すること
許可がなくなれば当然行政処分が来ることはありません。
2019年11月からは事業廃止は事後届出でなく、30日前の事前届出制となりました。欠格事由もかなり緻密に広範囲に逃亡ルートを防ぐように改正されました。
行政処分逃れの事業廃止をすることは事実上不可能です。
許可取消し処分の流れとなったあとに事業廃止届をしても欠格事由を持つ者となり、新規許可を受けられなくなるだけでなく、役員兼任会社まで行政処分を受けてしまう可能性が生じます。
欠格期間も2年から5年と長期化となりました。
行政処分後に、会社を合併したり分割、譲渡したらどうなるの?
合併・分割・譲渡の場合も、新会社に行政処分が引き継がれてしまいます。
車両の一部を他の会社に譲渡したらどうなるの?
ルールでは微妙な書き方をしていますが、おおむね違反営業所の半分以上の台数を譲渡するような行為は、逃れられないようになっています。
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行政処分について行政書士が完全解説
4〜行政処分編(3)〜