貨物自動車運送事業者の事故記録・事故報告・事故速報について解説

公開日:2018年2月5日 / 更新日:2024年3月7日

貨物自動車運送事業者が事故を起こした場合、まず目の前の人の救護、警察への連絡などは当然ですが、そのあとに沢山やらなければいけないことがあります。

事故報告のイメージ

運送業専門行政書士鈴木隆広【トラサポ主宰】運送業専門行政書士「行政書士鈴木隆広」 神奈川運輸支局前、一般貨物自動車運送事業一筋16年の行政書士。平成30年1月には業界初の本格的運送業手続き専門書籍「貨物自動車運送事業 書式全書」が日本法令から出版される。【本部:神奈川県横浜市都筑区池辺町3573-2-301】

事故発生後にやらなければいけないこと一覧

事故発生後にやらなければいけないこと

事故の重大さによってやらなければいけないことが変わります。

事故の記録の作成
軽い事故でも作成が必要。社内保管用(3年保存。輸送安全規則第9条の2)
自動車事故報告書
転覆、10台以上の衝突等、死者又は重傷者等発生した事故の場合。運輸支局の整備担当に30日以内に提出。(貨物自動車運送事業法第24条、自動車事故報告規則第3条)
速報
自動車事故報告書対象事故の中でも特に大きな事故については24時間以内に運輸支局の整備担当に電話・FAX等でもいいので提出。(貨物自動車運送事業法第24条、自動車事故報告規則第4条)
事故惹起運転者への特別な指導適性診断受診
死者又は重傷者を生じた交通事故を引き起こし、かつ、当該事故前の3年間に交通事故を引き起こしたことがある運転者(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条)
運転者台帳への記録
事故惹起運転者が適性診断、特別な指導を受けたら、運転者台帳に記録する必要があります。

(下記、様式は長野県トラック協会さんHP、関東運輸局HPより転載)

・事故の記録

まず、必ずやらなければいけないのは、「事故の記録」を作成することです。

これは構内の軽い物損事故でも作成義務があります。警察を呼んだ呼ばないなどは関係ありません。ちなみに事業実績報告書の一番左の事故数は「交通事故とは、道路交通法(昭和23年法律第105号)第72条第1項の交通事故」なので少し違います。

 

事故記録簿イメージ

事故の記録(様式)ダウンロード

記載事項は(貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条の2より)下記となります。

事故記録の記載項目

  • ・乗務員の氏名
  • ・事業用自動車の自動車登録番号その他の当該事業用自動車を識別できる表示
  • ・事故の発生日時
  • ・事故の発生場所
  • ・事故の当事者(乗務員を除く。)の氏名
  • ・事故の概要(損害の程度を含む。)
  • ・事故の原因
  • ・再発防止対策

・自動車事故報告書

次に、下記の事故を起こしてしまった場合は30日以内に運輸支局の整備担当部署に事故報告書を提出しなければなりません。

事故報告書の提出が必要な事故一覧

      • (1) 自動車が転覆し、転落し、火災(積載物品の火災を含む。以下同じ。)を起こし、又は鉄道車両(軌道車両を含む。以下同じ。)と衝突し、若しくは接触したもの
      • (2) 十台以上の自動車の衝突又は接触を生じたもの
      • (3) 死者又は重傷者を生じたもの
      • (4) 十人以上の負傷者を生じたもの
      • (5) 自動車に積載された後(※1)に掲げるものの全部若しくは一部が飛散し、又は漏えいしたもの
      • (6) 自動車に積載されたコンテナが落下したもの
      • (7) 操縦装置又は乗降口の扉を開閉する操作装置の不適切な操作により、旅客に自動車損害賠償保障法施行令第五条第四号に掲げる傷害が生じたもの ・・・貨物自動車は無関係ですね。
      • (8) 酒気帯び運転、無免許運転、大型自動車等無資格運転又は麻薬等運転を伴うもの
      • (9) 運転者の疾病により、事業用自動車の運転を継続することができなくなつたもの
      • (10) 救護義務違反があつたもの
      • (11) 自動車の装置の故障により、自動車が運行できなくなつたもの
      • (12) 車輪の脱落、被牽引自動車の分離を生じたもの(故障によるものに限る。)
      • (13) 橋脚、架線その他の鉄道施設を損傷し、三時間以上本線において鉄道車両の運転を休止させたもの
      • (14) 高速自動車国道又は自動車専用道路において、三時間以上自動車の通行を禁止させたもの
      • (15) 前各号に掲げるもののほか、自動車事故の発生の防止を図るために国土交通大臣が特に必要と認めて報告を指示したもの

(※1)で指定されている危険物

  • イ 消防法第二条第七項に規定する危険物
    ロ 火薬類取締法第二条第一項に規定する火薬類
    ハ 高圧ガス保安法第二条に規定する高圧ガス
    ニ 原子力基本法第三条第二号に規定する核燃料物質及びそれによつて汚染された物
    ホ 放射性同位元素等の規制に関する法律第二条第二項に規定する放射性同位元素及びそれによつて汚染された物又は同条第五項に規定する放射線発生装置から発生した同条第一項に規定する放射線によつて汚染された物
    ヘ シアン化ナトリウム又は毒物及び劇物取締法施行令別表第二に掲げる毒物又は劇物
    ト 道路運送車両の保安基準第四十七条第一項第三号に規定する品名の可燃物

よくある質問

読めばわかるものが多いですが、よくある疑問点もあるのでお答えします。

Q.運転者が調子悪くなって、コンビニまで行ったけどそこで力尽きた場合は?

A.運転継続ができなくなったので(9)に当てはまる可能性が高いです。

Q.サービスエリアでエンジンの調子が悪くなり動けなくなった。

A.交通事故は起こしていませんが、動けなくなったので(11)に当てはまる可能性が高いです。

Q.運輸支局に事故報告をしたら監査に入られたりしてヤブヘビになるのが怖くて、黙っておこうと思いますがどうですか?

A.まず、事故報告の未届違反の行政処分は10日車です。警察から運輸支局に通報が行くかどうかもわかりませんよね。ただ、事故報告は運送事業者の義務であることは忘れないでください。

 

自動車事故報告書(様式)様式ダウンロード

・速報

次に、下記の事故を起こしてしまった場合は24時間以内に運輸支局の整備担当部署に電話でもFAXでもよいので速報を提出しなければなりません。

事故速報が必要な事故一覧

        • (1) 死者又は重傷者を生じたもの(二人以上の死者を生じたもの、または五人以上の重傷者を生じたものに限る)
        • (2) 十人以上の負傷者を生じたもの
        • (3) 自動車に積載された後(※1)に掲げるものの全部若しくは一部が飛散し、又は漏えいしたもの(自動車が転覆し、転落し、火災を起こし、又は鉄道車両、自動車その他の物件と衝突し、若しくは接触したことにより生じたものに限る。)
        • (4) 酒気帯び運転、無免許運転、大型自動車等無資格運転又は麻薬等運転を伴うもの(酒気帯び運転があつたものに限る。

※「重傷者」というのは自動車損害賠償保障法施行令第五条第二号 又は第三号 に掲げる傷害を受けた者、すなわち下記の状態のことを言います。

※ 重傷者とは

  • ・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの
    ・上腕又は前腕の骨折で合併症を有するもの
    ・大腿又は下腿の骨折
    ・内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの
    ・14日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの
    ・脊柱の骨折
    ・上腕又は前腕の骨折
    ・内臓の破裂
    ・病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの
  • (※入院というのは検査入院も含まれます。※医師の治療を要する期間というのは俗に言う「全治○か月」というものです。)
    ・14日以上病院に入院することを要する傷害

 

関東運輸局管内各運輸支局輸送課の電話番号

東京運輸支局 03-3458-9233
神奈川運輸支局 045-939-6801
埼玉運輸支局 048-624-1032
群馬運輸支局 027-263-4440
千葉運輸支局 043-242-7335
茨城運輸支局 029-247-5244
栃木運輸支局 028-658-7011
山梨運輸支局 055-261-0880
関東運輸局貨物課 045-211-7248

事故速報(様式)ダウンロード

・特定診断

下記の特定の事故を起こしてしまった運転者は特定診断を受けなければなりません。過去に事故を起こしたかどうかで、受けなければいけない診断コースが変わります。

該当する運転者は、この特定診断を受診するまでは、再度運転することはできません!!

また、運転者台帳にも実施日を記載する必要があります。

事故惹起者の特定診断

特定診断Ⅰ(2時間)
①死亡又は重傷事故を起こし、かつ、当該事故前の1年間に事故を起こしたことがない者
②軽傷事故を起こし、かつ、当該事故前の3年間に事故を起こした事がある者
特定診断Ⅱ(5時間)
死亡又は重傷事故を起こし、かつ、当該事故前の1年間に事故を起こした者

自動車事故対策機構(NASVA)から特定診断受診の申込ができます。

http://www.nasva.go.jp/fusegu/tekiseisyurui.html

・特別な指導

死者又は負傷者(自動車損害賠償保障法施行令第五条第二号、第三号又は第四号に掲げる傷害を受けた者をいう。)が生じた事故を引き起こした運転者は特別な指導を受けなければなりません。

特別な指導というのは下記の内容になります。社内で実施で構いません。

・事業用自動車の運行の安全の確保に関する法令等を再確認させる。

・交通事故の事例の分析に基づく再発防止策を指導する。

・交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因及びこれらへの対処方法を指導する。

・交通事故を防止するために留意すべき事項を指導する。

・危険の予測及び回避を指導する。

ここまで座学6時間以上。

・安全運転の実技を指導する。(これは可能なかぎり実施するのが望ましい)

<参考>

国土交通省自動車総合安全情報

http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/instruction.html

このサイトには運転者指導マニュアルなど豊富になるので、参考にするとよいと思います。

 

特別な指導は記録し、3年間保存する必要があります。

また、運転者台帳にも実施日を記載する必要があります。

事故惹起運転者教育記録ダウンロード

ちなみに「自動車損害賠償保障法施行令第五条第二号、第三号又は第四号に掲げる傷害」というのは下記になります。なんか難しいですけど、このように決められているので仕方ないですね。法律は文章が難しい・・・。

二 次の傷害を受けた者

イ 脊(せき)柱の骨折で脊(せき)髄を損傷したと認められる症状を有するもの

ロ 上腕又は前腕の骨折で合併症を有するもの

ハ 大腿(たい)又は下腿(たい)の骨折

ニ 内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの

ホ 十四日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が三十日以上のもの

三 次の傷害(前号イからホまでに掲げる傷害を除く。)を受けた者

イ 脊(せき)柱の骨折

ロ 上腕又は前腕の骨折

ハ 内臓の破裂

ニ 病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が三十日以上のもの

ホ 十四日以上病院に入院することを要する傷害

四 十一日以上医師の治療を要する傷害(第二号イからホまで及び前号イからホまでに掲げる傷害を除く。)を受けた者