トラック運送業の2024年問題の思わぬ落とし穴解決法 | 運送業専門社労士林秀樹

公開日:2023年10月23日

【寄稿者】社会保険労務士:林秀樹。林労務経営サポート、代表社会保険労務士。株式会社エンパワーマネジメント代表取締役。運送業に特化した社会保険労務士として活動。特にトラックドライバーの賃金制度改定コンサルティングを得意とする。問題社員対応や1DAY就業規則作成サービスなどで訴えられない会社作りに取り組む。事務所所在地:仙台市青葉区一番町2-6-1シティハウス一番町中央2階。
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はじめに

連日世間を騒がせるトラック運送事業の2024年問題。年間960時間の残業上限規制が2024年4月1日からスタートしますが、悪戦苦闘する運送会社が後を絶ちません。
そんな経営者の方にこんな話をすると皆さまとても驚かれます。

「ところで社長。2024年問題は年間960時間の残業を達成すれば良いと思っていませんか?2024年問題には大きな落とし穴があって、それを知らないかなりの数の運送会社が、年間750時間程度の残業しか出来なくなると僕は思っていますよ」

年間960時間の残業上限規制をクリアするだけでも難しいのに、年間750時間程度の残業しか認められないというのは一体どういうことなのでしょう?
これこそが「トラック運送業の2024年問題の思わぬ落とし穴」です。ここでは、トラック運送業界を震撼させる2024年問題の落とし穴の解決法を解説していきます。

2024年問題を理解する前に

2024年問題の落とし穴の話に入る前に、大前提となる話をしましょう。
この部分の理解が進まないと正しい対処が出来ません。

そもそも残業は法律違反

残業はどこの会社でも普通に行われているので当たり前に思われていますが、実は法律違反です。大原則として社員の方を1日8時間1週40時間以上働かせてはいけません。

なぜ残業が出来ているの?

法律違反である残業を可能にしているのが36協定と言われる労使協定です。36協定とは正式名称を「時間外労働・休日労働に関する協定届」と言います。その名の通り残業や休日労働の限度を労使で話し合って、合意して決める協定書です。そして合意したその範囲内で残業や休日労働が可能になります。逆を言うとその合意した範囲を超えて残業や休日労働は出来ません。

無制限に残業が出来るわけではない

労使で話し合ったからと言っても無制限で残業が出来るわけではありません。国が上限時間を決めています。この上限時間が、トラックドライバーに関しては2024年4月1日から年間960時間と定められるのです。

そうです!これこそが運送業の2024年問題なのです。

2024年問題の落とし穴の正体

それでは2024年問題の落とし穴とは一体何なのでしょうか?

年間960時間の上限を国が決めました。
「年間960時間の範囲内で、労使で話し合って、会社の残業の上限を決めて、36協定を結んで、1年に1回労働基準監督署に報告しなさい」というのがルールとして決まりました。
つまり、あくまでも労使で話し合って上限を決めるのであって、全ての運送会社のドライバーに無条件で年間960時間の残業を認められるわけではないのです。

とても大切な36協定ですが、2024年4月1日から様式が大幅に変更されます。

そしてその新しい36協定に大きな落とし穴が潜んでいるのです。

ドライバーと一般社員の残業上限規制は違う

当然ですが、運送会社にはドライバーだけが働いているわけではありません。事務員や倉庫作業員、配車係などドライバー以外の社員の方が働いています。その方々とドライバーの残業時間の上限は大きく異なります。違いを比べてみましょう。

一般社員の上限規制

まずは、一般社員の上限規制です。
① 原則は月間45時間、年間360時間
② 特別な理由がある場合に年間720時間まで延長可能
③ 1ヵ月100時間、2カ月~6ヶ月平均で80時間を超えないように
④ 原則の時間(月間45時間)を超えられる回数は年間6回まで

ドライバーの上限規制

次にドライバーの2024年4月以降の上限規制です。
① 原則は月間45時間、年間360時間
② 年間960時間

これを見て分かる通り、ドライバーには月間の100時間制限や2カ月~6カ月平均での80時間制限、原則の時間(月間45時間)を超えられる年間6回の回数制限がありません。

極端な言い方をすれば、年間960時間をクリアさえすれば良いのです。ただ、改善基準告示の順守にも注意は必要ですが…

2024年問題の落とし穴解決法

ここからはいよいよ最大の落とし穴解決法を説明していきます。

ここからは実際の36協定の様式を見ながら読み進めて頂いた方が理解が進むと思いますので、以下のURLの「(令和6年4月1日以降)【自動車運転の業務を含む場合】時間外労働・休日労働に関する協定届」の「様式第9号の3の5」をWordでダウンロードをお願い致します。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html

ダウンロードしたWordは4ページありますが、その3ページをご覧ください。ここがとても重要です。

3ページの「時間外休日労働に関する協定届(特別条項)」の中に「1箇月の上限時間」を記載する欄があります。その下の方に「限度時間を超えて労働させることができる回数(①については6回以内、②については任意。)」と書いています。

①がドライバー以外の社員の欄で、6回が限度です。そして②がドライバーの欄です。

36協定様式3ページ目

何となく②の欄に「6回」と書いてしまうと大変なことになります。
②の欄に「6回」と書いて、1箇月の上限時間を80時間と書いてしまうと…
80時間×6箇月=480時間 原則の45時間×6箇月=270時間
480時間+270時間=750時間
つまり、年間750時間しか残業が出来なくなってしまいます。
これこそが、2024年問題の落とし穴です。
この落とし穴に対する解決法の3つのポイントを以下にまとめます。

2024年問題解決3つのポイント!!

  • 「限度時間を超えて労働させることができる回数」の②の欄は未記入か12回と書く
  • 月間の上限時間は実態に合わせて書く。月間80時間を超えてもOK(改善基準告示の拘束時間の上限を睨みながら決める)
  • 年間の上限時間は960時間と書く

まとめ

2~3年前から全国のトラック協会を中心に2024年問題セミナーが開かれてきました。
ただ、この落とし穴に言及したセミナーは殆どなかったと思います。
実際に私のお客様に聞いてもこの落とし穴を知っている方はほぼ皆無でした。
2024年問題の年間960時間の残業時間の上限規制と36協定が結びついていると考える方は決して多くないようです。

ただ、この部分を間違えると、これまでのトラック運送業の経営者の努力が水の泡となります。

実際に厚生労働省の新しい様式の36協定の記載例には年間750時間と記載されておりますし、今回指摘した以外にも、新様式の36協定に添付して提出する協定書も、ひな形から削除した方がリスク回避として良いだろうと思う記述が沢山あります。

2024年問題に向けて、書式の作成は、トラック運送業に詳しい専門家への相談をお勧めします。

この件について、相談依頼は林労務経営サポートへ⇒https://hayasisupport.net/
事務所所在地:仙台市青葉区一番町2-6-1シティハウス一番町中央2階