貨物自動車運送事業者のコンプライアンス(帳簿、研修、点呼、毎年の報告)

公開日:2018年1月31日 / 更新日:2022年5月17日

緑ナンバーを取ってもそれで終わりでなく、ここからが始まりです。運送事業には様々な帳簿や研修等やることがもりだくさん!絶対やらないといけない代表的なことをわかりやすくまとめました。緑ナンバー取得したての方は必見です。

帳簿群イメージ

運送業専門行政書士鈴木隆広【トラサポ主宰】運送業専門行政書士「行政書士鈴木隆広」 神奈川運輸支局前、一般貨物自動車運送事業一筋16年の行政書士。平成30年1月には業界初の本格的運送業手続き専門書籍「貨物自動車運送事業 書式全書」が日本法令から出版される。【本部:神奈川県横浜市都筑区池辺町3573-2-301】

運送業者が守らなければいけない法律

法律を知らないままルールを違反したやり方で事業を始めてしまうと、後で直しにくいです。
白ナンバートラックと比べると、一般貨物自動車運送事業の許可業者になることで特に下記の2つの法律を気にしなければなりません。

・貨物自動車運送事業法

・労働基準法

労働基準法は当然、白ナンバーの会社でも当然関係ありますが、一般貨物自動車運送事業の許可業者では、労働基準監督局の監査を入り口にして、相互通報制度により運輸支局の監査が来ることもあります。逆に、運輸支局の監査により、長時間労働が問題となると労働基準監督署に通報され、労働基準監督署からの監査が来ることもあります。

そのようなルールがあるので、一般貨物自動車運送事業の許可業者が最も気にしなければならない法律は貨物自動車運送事業法と労働基準法であるといえると思います。

そのような観点から、許可業者になったらやらなければいけない特に大事な点を解説します。

100%をすることは難しくても、強い気持ちで90%はなんとかやり遂げようという気持ちがなければ、適正化実施機関の巡回指導や運輸支局の監査によりナンバーを取り上げられたり、最悪の事態だと営業停止や許可取り消しという事態にもなりかねません。

一番怖いのは

「他の業者もやっているから」

「バレなければいいんでしょ」

という考えです。

どの業者も対面点呼なんてやってないよ、という声をよく聞きます。

でもそれはバレてないから問題になっていないわけです。

そのように言っていて、実際監査が入って車両が止められると、それまでから一転してものすごく後悔する社長に何人も会っています。

そこまで行くともはや改善したとしても、結局監査時点の違反は取り消すことができずナンバープレートを取り外され、仕事ができなくなります。

知らないままルールを違反したやり方で、事業を拡大しても、いざ「ルールを守ろう!」としたとき、そのやり方で会社が回っているのでほとんど直すことはできません。これから一般貨物自動車運送事業の新規許可を取得しようとしている事業者さんは、ぜひ初めから以下の義務を認識してから許可を取るようにしていただきたいです。

軽貨物黒ナンバーのコンプライアンスについてはこちらの記事をご覧ください。

対面点呼

これは多くの事業者さんにとって大きなハードルとなります。運行管理者または運行管理補助者が乗務前と乗務後、対面にて点呼をしなければなりません。すなわち直行直帰の仕事はできない、ということです。電話点呼は認められません。夜中の仕事でもこのルールは変わりません。「夜中に運行管理者で対面点呼しようと思ったら、運行管理者が24時間寝ずに働かないといけないじゃないか」という理由は通じません。それは「やむを得ない場合」とは残念ながらならないのです。運輸局は「では昼間の仕事だけで経営が成り立つようにしてください」と言うだけです。

今は、深夜に運行管理者補助者資格(NASVAの3日間基礎講習を受講)を持っている高齢者を雇って対面点呼している事業者さんも多くなってきました。そのようにして法律を守る強い気持ちが必要です。

点呼記録簿エクセルダウンロード

帳簿関連

たくさんありますが、特に以下のものが必要ですのではじめから記録できるようにしてください。

毎日の帳簿

日報(乗務等の記録)
毎日、何時に車庫を出発し、どこを経過し、何時に帰庫に帰ってきたか。走行距離などを記録します。
点呼記録簿
毎日、運行開始前と運行終了後に対面点呼を実施し記録します。
車両日常点検票
毎日、点呼前に車両日常点検を実施し、記録します。

これらが仕事をする日は毎日記録しなければならないものです。

オリジナルのものを作成してもよいですし、トラック協会で購入することもできます。

日報エクセルダウンロード
車両の日常点検チェック表を合わせた運転日報様式ダウンロード

また、雇い入れたときの1回のみ運転者台帳を作成する必要があります。

運転者台帳エクセルダウンロード

細かくは運行管理規定など、これら以外にも必要なものもありますが、最も気にしなければいけないのは上記のものとなります。

社会保険、雇用労災保険関係

人を雇っていれば雇用労災保険の加入は当然ですし、法人は当然、社会保険の加入をしなければなりません。白ナンバー事業者の場合は、正直規制する事業法がないので社会保険に入っていない場合もあるでしょうが、緑ナンバー事業者はそうはいきません。社会保険に入っていないと緑ナンバーが付けられませんし、運輸開始後に雇ったドライバーさんについても社会保険に加入していなければ、巡回指導や監査のときに社会保険一部未加入として指摘されます。遅かれ早かれ必ず入らなければいけません。

トラックのドライバーは、厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を守らなければなりません。

自動車運転者の労働時間等の改善のための基準

拘束時間や連続運転時間など、運送事業者が必ず知っておかなければいけないルールです。

1日の拘束時間
原則13時間まで(週に2回までは16時間が許される。それ以外は実際には15時間までは許されるが、15時間超が3回以上は違反となる)
1月の拘束時間
原則293時間(1年のうち6か月までは、1年間の拘束時間が3516時間(293×12月)を超えない範囲であれば、1月320時間まで大丈夫です)
1日の休息期間
8時間以上(勤務と勤務の間は8時間以上空けなければなりません
連続運転
4時間まで。4時間を超える前に合計30分以上の休憩を取ることが必要。長距離運転の場合は要注意です。
1日の運転時間
2日平均で9時間まで
休日労働
2週間に1度まで
休日
少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません(労働基準法により)

*「拘束時間」とは労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間を言います。それ以外を「休息期間」と言います。休憩時間は労働時間に含まれ、休息期間は労働時間以外の時間の事を言います。

*「休憩時間」とは待機時間とは違います。なにをしていても完全に自由な時間です。電話をしたら出なければいけない状況は「待機時間=労働時間」であり、休憩時間ではありません。

本当はもっと細かいことがありますが、それは別で詳しく解説するとして、これから許可を取る人は最低でもこれらは意識しておいてください。

要するに、もし今白ナンバーでこれらに違反している仕事をしている人が緑ナンバーを取ると、ルール違反となり、法律を守ることがかなり難しくなります。なんとかして、このルールの中で仕事がまわるような目途をつけてから一般貨物自動車運送事業の許可を取るようにしなければなりません。

研修・診断

ドライバーに研修を受けさせなければなりません。

運転者への法定研修指導や適性診断

運転者への研修は、あるキッカケの時だけすればいいものと、毎年しなければならないものがあります。

雇い入れた運転者
NASVAの初任運転者適性診断(過去3年以内に受診していれば不要です)
初任運転者に対する特別な指導(座学15時間以上、実技20時間以上)
65歳以上の運転者
NASVAの適齢診断(65歳以上で3年に一度受診が必要)
高齢運転者への特別な指導(NASVAの適齢診断結果を基にフィードバック。時間規定なし)
事故を起こした運転者
NASVAの特定診断 I(①死亡又は重傷事故を起こし、かつ、当該事故前の1年間に事故を起こしたことがない者 または ②軽傷事故を起こし、かつ、当該事故前の3年間に事故を起こした事がある者)
NASVAの特定診断 II(死亡又は重傷事故を起こし、かつ、当該事故前の1年間に事故を起こした者。※特定診断 I対象者より重い)
事故惹起運転者への特別な指導(座学6時間、実技については可能な限り行うのが望ましい)
毎年全員に実施
・貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針で定められた12項目の内容を実施。時間、実施回数の規定なし。
(1.事業用自動車を運転する場合の心構え 2.事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項 3.事業用自動車の構造上の特性 4.貨物の正しい積載方法 5.過積載の危険性 6.危険物を運搬する場合に留意すべき事項 7.適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況 8.危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法 9.運転者の運転適性に応じた安全運転 10.交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法 11.健康管理の重要性 12.安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法)

毎年の健康診断

毎年、健康診断を受けさせなければなりません。深夜時間帯(夜10時~朝5時)の勤務があるドライバーは年2回受けさせなければなりません。仕事を空けられないなどという理由は残念ながら運輸支局にも労働基準監督署にも通じません。

休日に休日出勤とし、給料と健康診断料を支払い、受診させるのが会社として求められることでしょう。

2年に1度 運行管理者と整備管理者の講習

運行管理者は2年に1度、運行管理者一般講習を受講する必要があります。
受講はNASVAその他のドライビングスクール等で可能です。
詳しくはコチラのページをご覧ください。

運行管理者も2年に1度、運輸支局で実施されている選任後研修を受講する必要があります。
開催日時等は各運輸支局ホームページをご覧ください。

毎年の報告

毎年、なんの問題なく仕事をしていたとしても2つの報告を運輸支局に提出しなければなりません。

運送事業者の毎年の報告

名前が似ていますが全く異なる2つの報告をしなければなりません。

事業実績報告書
前年4月1日~3月31日までの走行距離や輸送トン数、売り上げ等を7月10日までに提出
事業報告書
決算書内容を運送事業用に編集した報告書を決算期終了後100日以内に提出

いかがでしたでしょうか。

「え、こんなにやらなければいけないの??」

というのが正直な感想だと思います。

しかし、軽井沢スキーバス事故から法令順守が毎年のように厳しくなっています。

運送業というのは社会のインフラとしてもものすごく重要な仕事なので、高いコンプライアンス意識を求められてきています。実際、許可を取ったら全然大げさでなく、最低限これらのことは守らなければ、何十年と経営を続けることはできません。

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やらなければいけないことは、なんとなくわかったと思いますが、実際に”自社”でやるとなるとどうすればいいかわからないというお問合せが大変多いです。

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