貨物自動車運送事業者の事業用トラックを個人事業主ドライバーに運転させてよいか?

更新日:  /  初回公開日:

令和8年7月23日発行の物流weekly紙(以下、本誌)の一面で、「運送経営者には(中略)緑ナンバートラックで乗務する人は会社が雇用した人でなければならないー。(中略)という思い込み」と言い、あたかも「運送ドライバーは個人事業主にすれば社会保険入らなくて済むよ!」と読めてしまう記事が大々的に書かれていたので、それについてコメントします。

貨物自動車運送事業のドライバーの要件とは?

貨物自動車運送事業法の法体系では、事業用緑ナンバー車両を運転してよいのは、貨物自動車運送事業輸送安全規則の第3条にて「常時選任運転者」として以下のように定められています。

日々雇い入れられる者、二月以内の期間を定めて使用される者又は試みの使用期間中の者(十四日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)であってはならない。

これは雇用されていることが前提の書き方であり、個人事業主が運転することはまったく想定されていないと読むのが当然でしょう。ただ、「常時」というのはあまり意味はありません。週3日アルバイトドライバーでも問題ありません。
ちなみに本誌では「試みの使用期間中の者」をおそらく「試用期間中の者」と”思い込んだ”上で誤字にて「使用期間中の者」と書いています。(「試みの」を削除してしまっていますがこれは労働基準法第12条で規定されている法律用語なので削除してはいけません)

ただ、本誌にも書いてあるとおり、どこにも「個人事業主に緑ナンバートラックを運転させてはいけない」とは書いてないわけです。ここがこの法律のおかしなところです。そしてその一点だけは本誌の記事は正しいです。そして筆者もずっと前からそこには違和感を感じてきました。

※ここでは、当然、正式に一般貨物自動車運送事業許可を個人事業主で取得した事業者は合法なので除きます。

貨物自動車運送事業者のドライバーは社会保険必須なのか?

社会保険を確認するタイミングはいくつかあります。

・新規許可申請の添付書類のうち資金計画にて社会保険料を計上する項目がある

・新規許可後の運輸開始前確認報告にて、ドライバーのその会社での社会保険・雇用保険加入証明書類のコピーを添付(時短勤務の人はそもそも社会保険等加入要件にあたらないので不要。これはすべてについて同様)

・トラック協会適正化事業実施期間による巡回指導にて、運転者台帳に名前があるドライバーの社会保険、雇用保険加入状況の確認

なぜ確認するか?それは、緑ナンバーを運転するのは許可会社の正規従業員であるべきと考えられているからにほかなりません。もうそれありきですべてが構築されています。

個人事業主をドライバーにするメリットと改善基準告示の関係

個人事業主をドライバーにすると、最低賃金を守らなくてよいし、社会保険の会社負担分も発生しないというインセンティブが発生します。ただ、個人事業主であれば改善基準告示を守らなくていいからムリな運行はその人に任せよう、というのは通りません。個人事業主であっても、白ナンバードライバーであっても、経営者であっても改善基準告示は適用されます。ここは大いなる勘違いが多発していると思いますが、個人事業主・経営者も拘束時間13時間などのルールは完全に適用されます。

改善基準告示は個人事業主でも経営者でも白ナンバーでも適用される!

個人事業主が他社の緑ナンバーで仕事したらNGな明確な理由

さぁ、とは言え、これだけではオブラートの外側を撫でているような議論です。
おそらくこの一点が最も「個人事業主が他社の緑ナンバーをお金をもらって運転したらそれは名義貸りだよ」というところを次に解説します。

貨物自動車運送事業法第2条では「一般貨物自動車運送事業」についてこう定義されています。

この法律において「一般貨物自動車運送事業」とは、他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する事業

ここで、「自動車」というのが「自らの自動車」と書いていないところがポイントです。もし法律のこの部分が「自らの自動車」と書いていたならば、運送会社Aの緑ナンバー(車検証の使用者欄がA)を、個人事業主Bが運転する場合、Bの自動車でないことは明らかなので、このBの行為は一般貨物自動車運送事業でないので無許可営業にそもそもあたりません。
しかし、「自らの」が無いただの「自動車」が法の記載なので、Bはまさに「他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する事業」をしています。給与としてでなく個人事業主の「売上」としてもらっているので最後の「事業」も満たし、この行為は運送業許可が必要な行為です。それを事業主としてのBは許可が持っていないわけなので無許可営業となります。法第70条の「三年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」の対象となります。

A社の緑ナンバーを個人事業主Bが運転する場合の整理

本誌ではこの観点が完全に抜けています。Bは無許可事業者なのは法から明確に導くことができます。

本誌では「合法に社会保険加入しなくて済む」と堂々と書いていますが、それは「個人事業主だったら社会保険加入しない(実際はできない)」という労働基準法についてのみ「合法」であり、それをあたかも貨物自動車運送事業法まで含んで「合法」と読ませる余地を多分に含む書き方はかなり危険です。読者もそこまで無知ではないでしょうが、中にはそれを信じてしまう人もいるでしょう。メディアの姿勢としてはとても怖いことです。

名義貸し?偽装請負?ナンバー貸し?

もし、ここで「名目は売上だけど実質は給料だ」という主張をする場合、それは偽装請負の方の労働基準法の問題になってくるでしょう。なぜなら給料(=実質雇用)と言い張るのであれば、この個人事業主はA社の運行管理者の監督下に置かれていなければおかしいからです。A社の言うことを聞いていれば偽装請負ですし、A社の言うことを聞いていなければ完全なる個人事業主による無許可営業です。どちらの道も違法の道です。

次に、自社(A)とは別の事業体(個人事業主B)に緑ナンバーを使わせている行為について考えます。これは俗にいう「ナンバー貸し」(ここでは法律にある名義貸しとは分けて書いています)なのは明らかです。

ここで、Bはどこからお金をもらうかによって違反内容が異なります。Bが直接、お客さん(Aでない)から売上をもらっていたら(ここでお金をもらう名目では左右されません)、これはまさに法第28条((名義の利用等の禁止)第二十八条 一般貨物自動車運送事業者は、その名義を他人に一般貨物自動車運送事業又は特定貨物自動車運送事業のため利用させてはならない。)に違反します。Aは第28条違反としてさきほどと同じく法第70条の「三年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」の対象となります。

次に、Bがお金をもらうのはAからという場合を考えましょう。これが第28条名義貸し違反となるかを検討しましょう。さきほどの考察から、Bが一般貨物自動車運送事業を無許可で行っていることは明らかです。しかし、BはAの名義を使ってAからお金をもらっているわけではありません。Aの名義を使って仕事をするのはA以外からお金をもらうケースです。そう考えると、すべての売り上げ金額をAからもらっている場合は、名義貸し違反とはならない気がします。ただ、依然として貨物自動車運送事業無許可事業であることには変わりません。また、Aは「第65条の2(無許可等で貨物自動車運送事業を経営する者への貨物の運送の委託の禁止)第六十五条の二 何人も、次のいずれかに該当する者に貨物の運送(自動車を使用しないで貨物の運送を行わせることを内容とする契約によるものを除く。)を委託してはならない。一 第三条の規定に違反して一般貨物自動車運送事業を経営する者」の違反となる可能性が高いので、Aは法第75条により百万円以下の罰金の対象となります。
今はこの名義を「許可」に限る狭義の名義貸しを検討しました。しかし、運送業許可はそのトラック(事業用自動車)と一体です。A社名義(使用者名義)の事業用トラックをB(A社の者でない者)に「利用」させているのは明らかです。そのように車両まで含めた広義の「名義」までがこの28条の禁止に含まれるのであれば、このケースも(名義の利用等の禁止)に当たります。

改めて考えると、貨物自動車運送事業法のどこにも「事業用自動車は自社使用者名義でないといけない」という記載がありません。貨物自動車運送事業法第4条に「事業の用に供する自動車(以下「事業用自動車」という。)」とあるだけです。そして、貨物を運ぶのを事業用自動車で運ばなければならない、という記述もありません。それはつまり、それが当然だからです。つまり、貨物自動車運送事業許可業者は、自社の自動車、自社の従業員などの自社の資源を使って貨物を運ぶことを大前提として想定されていると考えるのが法体系の意図するところと考えます。

実際にナンバー貸ししてる会社が存在している現実

本誌では、どこかの150台くらいの会社は大勢の個人事業主ドライバーに緑ナンバーを運転させているという「現実」を挙げていますが、どんな意図でそれを書いているのかまったく理解できません。もちろん私も、規模はさておき、そのような状態の会社の存在は知ってますよ。でもそれは運輸支局が知った上で黙認されているわけではなく、たまたま取り締まられていないだけです。「まだ捕まっていないから合法」理論はものすごく乱暴です。時速60kmオーバーでいつも高速道路を走ってる人が「俺まだ一度も捕まったことないから合法だぜ」と言ってるのとまったく同じです。

実際、トラック協会巡回指導員や運輸支局の監査担当は、財務書類である総勘定元帳の未払金のところに個人事業主の名前がある場合は、名義貸しについて疑います。本誌で「国交省は雇用と言ってない」というようにしか読めない曲解文章をあえて書いていますが、先のように総勘定元帳を見ることからも国交省のスタンスは個人事業主ドライバーは違法と考えています。まあ、私も直接運輸支局担当者に何回も何人かに確認しましたが「当然従業員しかダメ」という回答です。(出向、派遣社員は別)

常時選任運転者の規定は雇用される従業員にだけ適用されるのか?

本誌は輸送安全規則の常時選任運転者ルールが「雇用されている者にだけ適用されるルールであり、個人事業主であれば適用されない」ということを言っていますが、そもそも個人事業主は雇用ではないのだから、そんなの当然です。「雇用は大前提?それとも雇用の場合だけ?」ということを書いていますがその問いはものすごくナンセンスです。このように2者択一を考える場合、2つが両立しない場合でなければ意味がありません。この2つは両立します。ドライバーは雇用従業員だけに限るという法体系だからそのように書いてあると読むべきです。これは決して思い込みではありません。雇用は大前提だけど、日雇いとかはダメだよ、ある程度長期間のいわゆる正社員みたいな人でないとしっかり教育もできないし安心して任せられないでしょ、ということです。雇用してない個人事業主は独立してるのですから言うこと聞かせられないわけで、それってものすごく怖いことで安全に背を向けている状態です。

従業員は会社という組織の一部分

また、従業員というのもひとりの人間です。一般貨物自動車運送事業の許可を持っている法人または個人事業主(この2つを「会社」と言います)とは別人です。運送業許可を与えられたのはあくまで会社です。ではなぜその別人である従業員が緑ナンバー車両を運転できるのでしょう?それは従業員というは会社が実際に定款目的に記載のある活動をするために会社と一体として実際の活動をする一機関だからです。法人だとイメージがわかりやすいですね。法人というのは当然、実際には生き物として存在しないので、その経営部分の実働を担うのが役員という機関であり、その実業部分を担うのが雇用関係のある従業員という機関です。それらは一体として「法人」を名乗って行動します。だから従業員が業務上でなにか事故を起こしてしまった場合も法人加入の損害保険を使うことになります。それが別々の人であれば当然、法人の損害保険は使えません。会社は経営者と従業員が一体となって構成されている一つの組織です。従業員個人は当然運送業許可がありませんが、会社とは別の人間である従業員が一つの組織の機関として、会社名義の緑ナンバーを運転して良いという立て付けがあります。この観点も本誌では触れられていませんでしたね。

「運転者は従業員でないといけない」とどこかに明記されていないのか?

貨物法第15条にはこのような記載があります。
(輸送の安全)
第十五条 一般貨物自動車運送事業者は、次に掲げる事項に関し国土交通省令で定める基準を遵守しなければならない。
一 事業用自動車の数、荷役その他の事業用自動車の運転に附帯する作業の状況等に応じて必要となる員数の運転者及びその他の従業員の確保

この「その他の」というのは法律用語であって「その他」と明確に違います。「その他の」は前の言葉を含む上位概念です。つまり、確保する運転者は従業員であることを想定しています。(ただ、この「その他の」理論は他の箇所では本議論では違う方向に作用するように働くので、この一点だけではあまり左右されないポイントです)

雇用でないといけない、と書いていない!という主張について

そして、「個人事業主は緑ナンバーに乗らせてはいけないとはどこにも書いていないからいいんだ」ということにもしなったとしたら、従業員に対して設けている安全等のための様々なルールは個人事業主に緑ナンバーを運転させれば守らなくていいことになります。そんなことはありえません。

そもそも、自社の従業員とはしたくないような人を、どんなに法をこねくりまわしたとておそらく黒でありグレーだとしても限りなく黒に近い状態であることを知りながらドライバーとして使うようなルール順守意識が低い会社が生き残れるとは思えませんし、荷主はそんな会社に怖くて仕事を頼めるとは思いません。

本誌は「雇用でないといけない、と書いていないから」ということを主張していますが、法律ですべてを書くわけにはいきません。たとえそれがその語だけでは誤解が生じえたり、いくつもの考え方が取れるとしてもです。たとえば貨物自動車運送事業法第2条の定義だけとってもそうです。

この法律において「一般貨物自動車運送事業」とは、他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する事業

ここで「他人の需要」ってなに?たとえば自社製品を納品する際に配送料をもらったらどうなのよ?という議論も今現在実際に出ていますし、「貨物ってなに?」というのも「無価物であれば有償で運んでも大丈夫」という議論も昔から出てます。法の成立当時では疑義がなかった言葉も時代の変化とともに違和感を感じてしまうようになることもあります。また、そういう言葉を厳密に「ケース」を書くのは法律のあるべき姿ではありません。法律は抽象的な言葉で書き、その範囲で包括的に適用するのが原則です。だから違法ドラッグ(合法ドラッグ?)もいたちごっこが続いていましたね。多くのケースを1対1で定義してしまうとどうしても漏れが生じてしまうのです。だから法を読む我々はその思想を深く理解しなければなりません。そう考えると、貨物自動車運送事業省の目的「(目的)第一条 この法律は、貨物自動車運送事業の運営を適正かつ合理的なものとするとともに、貨物自動車運送に関するこの法律及びこの法律に基づく措置の遵守等を図るための民間団体等による自主的な活動を促進することにより、輸送の安全を確保するとともに、貨物自動車運送事業の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。」から考えた場合、そんな抜け穴の個人事業主ドライバーを使うことはこの方の理念に合ってるのか?という考え方がとても重要です。社会保険は国民全体と社会を守る制度であり、会社の義務です。それを避けようという思想は貨物法の理念とは完全に反します。それが99%そうだろう、を100%にするラストピースです。

まとめ

さぁ、ここまで書いてもまだ緑ナンバードライバーは雇用従業員でなければいけない、というは思い込みでしょうか?

ただ、法体系のどこにも「貨物自動車運送事業者が雇用している従業員でないといけない」ということが書かれないのは意図が分かりません。そんなこと論じるまでも無く当然だから書かない、ということも確かに法律の書き方としてはありますが、運送業では名義貸しにあたるかどうかというのはかなり繊細な問題になるわけですから、このあたりは国民を安心させるためにも、どこかには明記してもらいたいものです。