常時選任運転者で言う試みの使用期間と試用期間の違いとは?
試みの使用期間と試用期間は言葉が似ていて同じものと思ってしまいますが厳密には少し違うところがあります。誤解しているととんでもないことになりかねないのでポイントを整理しておきましょう。14日以内は常時選任運転者になれないと書いてるけど雇った初日からトラックに乗せたらルール違反なの?試用期間の従業員は簡単に解雇できるの?などについて解説します。
【トラサポ主宰】運送業専門行政書士「行政書士鈴木隆広」 神奈川運輸支局前、一般貨物自動車運送事業一筋16年の行政書士。平成30年1月には業界初の本格的運送業手続き専門書籍「貨物自動車運送事業 書式全書」が日本法令から出版される。【本部:神奈川県横浜市都筑区池辺町3573-2-301】法律の定義はどうなってるの?
正しい理解は法律から入るのが近道です。
まず、試みの使用期間中の者は貨物自動車運送事業輸送安全規則と労働基準法でこのように登場します。
貨物自動車運送事業輸送安全規則(過労運転の防止)
- 第三条 一般貨物自動車運送事業者等は、事業計画に従い業務を行うに必要な員数の事業用自動車の運転者(以下「運転者」という。)を常時選任しておかなければならない。
2 前項の規定により選任する運転者は、日々雇い入れられる者、二月以内の期間を定めて使用される者又は試みの使用期間中の者(十四日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)であってはならない。
労働基準法(解雇の予告)
- 第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
しかし、「試みの使用期間」は条文に登場するだけで明確な定義が書いてありません。
はたしてどういうことなのでしょう?
試用期間ってなに?
試用期間という言葉は直接には法令に記載がありません。
しかし、意味としては解約権留保付き契約期間と言えます。
簡単に言えば、2カ月ならば2カ月の間は雇用主の判断で解雇できると「思われている」ものです。
ここで「思われている」と書いたのは、それは誤解であって、本当はなんでもかんでも解雇できるわけでないということだからです。
実際は、一般社員よりほんの少しだけ解雇要件が緩いだけです。「特別な事情」がなければ試用期間であっても解雇はできません。そこのところを勘違いすると不当解雇で訴えられてヒドイ目に会うこともあるので注意が必要です。
「特別な事情」の具体的な例としては、経歴詐称、能力の大幅な不足、勤務態度が極端に悪い、遅刻欠席が多すぎる、健康不良すぎる、というものです。しかし、相当信じられないくらい悪くなければ特別な事情にはあたらないでしょう。
少なくとも能力の大幅な不足について「うちの基準には達してない。基準は企業秘密だから説明しない。」そんなのは通じない可能性が大きいです。
もし本採用前に適性を見定めたいのであれば、雇用する前に、採用試験を時間をかけてしっかり実施してから採用すべきでしょう。
また、試用期間は雇用主のためだけでなく、従業員がその会社を見極める大切な期間でもあります。
雇用というのは雇用主と従業員がお互いを認めて初めて成立するのです。
また、試用期間を適用するためには就業規則や雇用契約書等に明記されていなければなりません。「2カ月は試用期間だから本採用になるように頑張って!」などと口約束だけで終わらせてはいけません。必ず書面に残しましょう。
その上で、本採用へとクリアするためのしっかりとした基準を作成し、合理的客観的にその基準をクリアしているかのチェックをする必要があります。そのあたりは専門の社労士に確認しながら進めてください。
とにかく、試用期間だからと言って、2カ月終わったときに「はい、本採用なりませんでした。残念でした」とはいかないという点が要注意です。
有期契約の更新制にしたらどうでしょうか?
正社員でも試用期間でも解雇できない・・・ならば有期契約を連続していく方法もきっと考えるでしょう。
例えば3か月の有期契約を更新し続けたらリスクが減ると考えるのは当然です。しかし、労働基準法第14条でそれも最長3年までしか延長できないことになっています。
3年延長できればずいぶん良いと思うかもしれませんが、途中も3カ月で簡単に契約解除できるとも限りません。正社員と同じ仕事をしていて実質正社員とみなされたり、更新回数が多くなってくると契約解除は難しくなります。
だから有期契約の更新の仕組みを取り入れる際も安易に考えず、専門の社労士と相談してください。
試用期間中は社会保険、雇用保険の加入義務はあるの?
社会保険と雇用保険は雇い入れ初日から加入させなければなりません。
本採用するかしないかわからないのに加入させたくないという気持ちはわかりますが、そういうわけにはいきません。
試用期間中は社会保険加入にいれたくないならば、加入義務が無い少ない日数で働いてもらうのがよいでしょう。
試みの使用期間と試用期間の違いとは?
たとえば2カ月の試用期間を設けたとします。それは同時に試の使用期間中の者になります。ここはイコールと思ってよいです。
労働基準法第20条では30日前の解雇予告を求めています。ただし、試の使用期間中の者であって雇い入れから14日以内の人にはその解雇予告や30日分以上の平均賃金支払いをしなくてよいとなっています。
しかしだからと言って、簡単に解雇できるかというとそれは別問題です。要は試用期間中で14日以内の人は、解雇権濫用にならない範囲で解雇でき、その場合は予告や賃金補償が不要ということにすぎません。14日以内であれば問答無用で簡単に解雇できるわけではないということです。ここが注意です。
そもそも30日前の解雇予告ルールについても、この条文をそのまま読めば、30日前に予告すれば簡単に解雇できるようにしか読めませんが実際は違うわけです。解雇する難しさについてはそれと全く同じことだと考えてください。
では試用期間ってなんのためにあるの?という疑問が湧くと思いますが、その疑問はもっともです。厳密に言うと就業規則や雇用契約等で試用期間を設定しても、残念ながらそう言った意味ではあまり意味をなさないのです。
雇い入れ14日以内の従業員は常時選任運転者になれるの?
輸送安全規則にあるとおり、試用期間中14日以内の従業員は常時選任運転者になれません。研修や助手席乗務、荷積み卸し等しかできません。
逆に言えば、試用期間を定めず、初日から本採用であれば、適性診断や初任運転者特別指導、健康診断をクリアすれば雇い入れから14日以内であっても常時選任運転者として仕事ができます。
そして試用期間が2か月であれば、雇い入れ15日以降は試用期間の常時選任運転者という状態になるということです。
まとめ
結果、試みの使用期間と試用期間はほぼ同じものだと考えて支障はありません。
14日以内の試用期間といえども簡単に解雇できないことを覚えておきましょう。
あわせて、試用期間といえども簡単に解雇できないことを覚えておきましょう。
雇ってすぐにドライバーとして仕事をさせたいのであれば試用期間を定めないようにしましょう。
本採用の前に適性を確認したい場合は採用前試験を実施するのが良いです。
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