国土交通省告示標準運賃案について(2018年12月4日法改正)
2018年12月4日公布の貨物自動車運送事業法改正にて「国土交通大臣が標準的な運賃を定め、告示できる」という内容が定められました。2020年2月26日付でその案が出されました。具体的な数字と過去のタリフ、実勢運賃との比較考察をします。
【トラサポ主宰】運送業専門行政書士「行政書士鈴木隆広」
神奈川運輸支局前、一般貨物自動車運送事業一筋16年の行政書士。平成30年1月には業界初の本格的運送業手続き専門書籍「貨物自動車運送事業 書式全書」が日本法令から出版される。【本部:神奈川県横浜市都筑区池辺町3573-2-301】
背景
平成2年の貨物自動車運送事業法にて大幅規制緩和があり、運送事業者が急増。そのために過当競争になり、運賃が下がり続けた昨今。労働者不足によりドライバー確保が困難な中、賃金水準も上がり、低い運賃ではとてもではありませんが運送事業を続けることはできません。
競争力向上のために社会保険に入らない事業者を排除するため、運輸支局の社会保険未加入事業者の取り締まりもどんどん強くなっています。それも実質的な人件費の向上につながっています。
そのような背景の中、2018年12月4日公布の貨物自動車運送事業法改正の折に「国土交通大臣が標準的な運賃を定め、告示できる」という内容が定められました(令和5年度末までの時限措置)。
この告示は、公布日から起算して2年を超えない範囲において政令で定める日とされているので、2020年12月4日までを期限として告示されることになります。
それを受け、2020年2月26日付で国土交通大臣から運輸審議会に諮問がありました。https://www.mlit.go.jp/report/press/unyu00_hh_000191.html
この中に標準運賃表の案が掲載されています。
2020年4月2日にはこれについて公聴会が開催されるとのことです。
公聴会について
- 日時:令和2年4月2日(木) 午後1時から
場所:中央合同庁舎第4号館 4階 共用408会議室 (東京都千代田区霞が関3-1-1)
【参考資料】一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃の告示に関する諮問について(国運審第2号令和2年4月14日)
【参考資料】原価計算要領について(平成6年2月15日自貨第12号)
標準運賃表(案)【距離制運賃】
では公開された標準運賃表の案(距離制)を見てみましょう。
今のところ、2tトラック、4tトラック、10t大型トラック、20tトレーラーの4区分で作成されています。
2tトラック
4tトラック
大型10tトラック
トレーラー20t
旧タリフとの比較
関東のみになりますが、旧タリフと比較してみましょう。
新標準運賃表(案)で記載されている積載量に合わせて抜粋しました。
人件費その他車両費等高騰のためか、基本料金が上がっていますね。従って近距離の方がおおむね倍率が高いです。
<2tトラック地場で1日100km走行の場合>
地場での運送が多い場合、1日の走行距離は100km前後とすると、2tトラックで見ると今まで約2万円だったのが32000円となっています。2万円で25日動いて50万円、32000円で25日動けば80万円。
付加価値率55%、人件費率80%だとすると、ドライバーさんの給料は以下のように算出されます。
(付加価値率と人件費率は全日本トラック協会の平成24年度経営分析報告書を参考にしました)
80万×55%=44万(粗利) ×80%=35万2千円
ボーナス1か月分出るとしたら年収約460万円。悪くないですよね。
<10tトラック地場で1日200km走行の場合>
大型車で中長距離200kmだとすると、料金は50220円。25日働いて125万5500円。この時点で結構良い売上ですね。
同じく付加価値率55%、人件費率80%だとすると、ドライバーさんの給料は以下のように算出されます。
125万5500×55%=69万(粗利) ×80%=55万2千円
ボーナス1か月分出るとしたら年収約718万円となります。
300kmになると運賃は約160万、年収は911万となります。
これくらい運賃だと健全な経営と良い労働環境を実現できますね。
実勢運賃との比較
この数字は2018年のものですが、おそらく2020年現在においても、そこまで外れた数字ではないのではないでしょうか。
これに標準運賃案を入れ込んで比較してみましょう。
実勢と比較しても1.3~2.75倍の数字となります。
月額は日額を単純に25日掛けてしまったので、さすがに高すぎるかも知れませんね。
しかし私の感覚としては、実勢運賃より3割上がってくれれば“経営”ができると考えていたので、2t車については本当にこのくらい欲しいです。
標準運賃表(案)【時間制運賃】
時間制についても今のところ、2tトラック、4tトラック、10t大型トラック、20tトレーラーの4区分で作成されています。
全国の時間制運賃表
これを距離制運賃表と比較すると、8時間で約130~140km走る計算で算出しているようです。
基礎作業時間を超えた分について、例えば関東では2tで1時間3820円+10kmごとに280円追加となります。
8時間を超えた部分にて、1時間で50km走ったとしたら3820円+280×5=5220円となります。
先ほどの計算と同様、付加価値率55%、人件費率80%にて計算してみましょう。
5220円×55% = 約2870円×80% = 約2300円
1時間2300円を残業代25%減して、8時間を25日として月給換算すると約36万7千円となります。それほどおかしな金額ではりませんね。逆に考えれば、本来8時間を超過したらこれくらいもらわなければドライバーさんに十分な給料を支払えないし、払うことで会社は赤字になってしまうこととなります。
旧タリフとの比較
関東のみになりますが、時間制運賃を旧タリフと比較してみましょう。
小さいトラックの方が増加率が高いですね。これは人件費が高騰して来ている影響が高いと思いますが、大きいトラックと小さいトラックの運賃格差が小さくなったということも言えるでしょう。
待機料金(案)
本来、待機料金はその会社の人件費と固定費を時間で割った金額にすべきだと考えますが、ここでは案として出された時間制運賃と比較するのが妥当でしょう。
さきほど2tトラックで1時間超過の際、3820円でした。30分なのでそれを半分にすると1910円となります。
2tトラックでの30分待機料金は1670円です。運転はしていませんが、人件費は発生するので、妥当な数字ではないでしょうか。
国が運賃の指針を出すことのメリットとデメリット
私は法律で標準運賃が告示されることが定まった際に疑問を感じました。そのあとも今の運送業界は多種多様で標準運賃なんて示すことはできないと思っていました。しかし、実際こうやって案が提示されたことに驚いています。
実際に見てみると、この運賃がもらえたら確かに良いですが、実勢運賃との乖離が大きいので、この告示がどのような影響を及ぼすのかまったくわかりません。
実際は超精密機械や超特殊車両での業務もありますし、貸切なのか混載なのかで全く話が変わります。
本当は新車で運ぶのと中古トラックで運ぶのでも運送原価はかなり変わります。
少し論点はズレますが、帰り荷がある場合と無い場合ではそれぞれの運賃の許容範囲は全く変わります。
従って、この国土交通省案は「帰り荷想定無し、貸切」という想定と言うことで捉えておきましょう。
メリット
標準運賃導入によるメリット
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- ・低運賃で困っている事業者は運賃交渉がしやすくなる
・標準運賃がはびこれば運送業界はかなり良くなる
- ・低運賃で困っている事業者は運賃交渉がしやすくなる
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デメリット
標準運賃導入によるデメリット
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- ・標準運賃案より高い運賃を取っている事業者は、逆に値下げを要求されてしまうかも知れない
・この標準運賃案を以て荷主・元請けと交渉してもまったく効果がない場合、「国がなにをしてくれてもやっぱりダメなのか・・・」と心が折れる。(これは今後のことを考えるとかなり悪影響です)
・各運送事業者が運賃原価計算をする理由を減らしてしまう
・運送費高騰による消費者が被る経済的損失
- ・標準運賃案より高い運賃を取っている事業者は、逆に値下げを要求されてしまうかも知れない
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物流weeklyにも関連記事が掲載されているので是非読んでください。
https://weekly-net.co.jp/news/44826/
また、国土交通省による「運賃のあり方」を読むと本案策定の途中経過が垣間見えます。 http://www.mlit.go.jp/common/001183311.pdf
まとめ
この自由競争の中、国が標準運賃を提示することにどんな意味があるかはわかりません。
ただ、全体的な流れとして「荷主もしっかり管理して、正当な運賃のみならず待機料金や実費もしっかりもらえるようにしよう」というものはジワジワとルールと現実にて進んできているのは間違いありません。
これから生き残ることができる運送事業者はしっかりとコンプライアンスを守る会社だけです。
適正な運賃をもらい、荷主にも従業員にも社会にも経営的にも良い会社になっていきましょう!!
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