緑ナンバー新規許可と譲渡どっちがいいの?専門行政書士による解説
一般貨物自動車運送事業の許可の譲渡を検討の方必見。譲渡譲受の申請方法。法令試験は不要なのか?営業ナンバー許可の売買価格の相場は?新規許可となにが違うのか?すべてわかりやすく解説します。
目次
許可の譲渡ってなに?
一般貨物自動車運送事業(緑ナンバー)を行うには、許可が必要です。
多くの場合、新規に許可を取得しますが、一般貨物自動車運送事業の許可は、数ある営業許可の中では珍しく、「譲渡」することができます。
許可の譲渡は、会社を買うことではありません。
会社を買うというのは、一般的には「会社の株を買って」「役員を変更する」ことを指します。
許可の譲渡というのは、その言葉通りで、Aという会社から“許可”という無形財産だけをBという会社が譲り受ける、ということです。
参入規制がある免許時代(許可でなく免許)のときは、免許を取るのがとても難しく、運送業の許可は既得権として扱われた時代でした。高度経済成長期でもありますし、運送事業者もドライバーもみんなが潤い、喉から手が出るほど欲しいものでした。従って、運送業の許可は高額で取引されていました。
しかし、今は参入規制がなくなり、要件され揃えば新規許可が取れる時代です。
後ほど説明しますが、新規許可に比べて譲渡譲受に大きなメリットがあるとは言えません。
昔から運送業をやっている社長から「運送業の許可を取るのは難しいから譲渡してもらうしかない」という話は全くの誤解です。自分が取ったときはたしかに大変でしたが、今はそんな時代ではありません。
「300万円で許可を買った」という話も聞きますが、良い仕事がついてこないのであれば、それは法外な値段と言えます。
誤った情報で起業の機会を逃したり、許可を譲り受けるのに法外な金額を払わなくて済むように、譲渡譲受について一緒に理解していきましょう。
許可の譲渡方法
一般貨物自動車運送事業の許可をある法人(または個人)から、別の法人(または個人)に譲渡する場合、国土交通省に譲渡譲受の認可を受けなければなりません。
貨物自動車運送事業施行規則第17条より抜粋
- 一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受けの認可を申請しようとする者は、次に掲げる事項を記載し、かつ、当事者が連署した事業の譲渡譲受認可申請書を提出しなければならない。
- 一 譲渡人及び譲受人の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
- 二 譲渡し及び譲受けの価格
- 三 譲渡し及び譲受けの予定日
- 四 譲渡し及び譲受けを必要とする理由
- 2 前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
- 一 譲渡譲受契約書の写し
- 二 譲渡し及び譲受けの価格の明細書
申請先はどこの役所?
許可を受ける申請者の営業所を管轄する運輸支局の輸送窓口に申請します。
譲渡し及び譲受けの価格
許可自体の売買価格です。無償でも構いません。
許可自体の売買価格については「許可の売買価格」にて詳しく解説します。
譲渡譲受契約書
許可を譲渡し譲受する契約書を結ばないといけません。
サンプルを掲載します。
譲渡し及び譲受けの価格の明細書
許可や車両、什器等、運送事業に関わる物品等の名称と価格明細を作成します。
譲渡譲受の認可要件は?
譲渡譲受の認可申請では、譲受する方(許可をもらう方)が、新規許可を受けるのと同等の要件をクリアしなければなりません。
標準処理期間は申請から1~3か月とされています。
運行管理者、整備管理者、5台以上のトラック、営業所、車庫等の確保、資本要件等すべてをクリアし、また役員法令試験も合格しなければなりません。
※中国運輸局だけは、なぜか資本要件が求められていません。→2019年の法改正時に中国運輸局も求められるように統一されました。
譲渡譲受の場合のメリットとデメリット
譲渡譲受でも、要件は同等のものを求められますが、申請手続きの上では、細かい違いがあります。これらについてよく検討して、「新規許可申請」をするのか「譲渡譲受認可申請」をするのかを決めると良いでしょう。
<新規許可と譲渡譲受の手続き上の違い>
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- 1.標準処理期間
- 新規許可:3~5カ月
- 譲渡譲受:1~3カ月(実際は3~4カ月程)
- 2.登録免許税
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- 新規許可:12万円
- 譲渡譲受:なし
- 3.法令試験
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- 新規許可:原則として、翌月以降の直近奇数月。2回目はその翌々月奇数月。
- 譲渡譲受:場合によっては申請当月後半。新規許可と異なる場合があります。2回目は新規許可と同じく、その翌々月奇数月。
- 4.必要残高証明金額
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- 新規許可:登録免許税の12万円分だけは確実に余分に必要
- 譲渡譲受:車両の譲渡価格が安価であれば新規許可より必要資金が少なくなる可能性はある
- 5.社会保険
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- 新規許可:5人以上が社会保険と労働保険に加入していなければ緑ナンバーがつかない(=事業用自動車等連絡書が発行されない)
- 譲渡譲受:譲受会社がもし社会保険に入っていなくとも事業用自動車等連絡書は発行されるので譲渡会社で緑ナンバーを付けることは可能。
- 6.行政処分違反点数
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- 新規許可:新規なのでゼロ
- 譲渡譲受:譲渡側が違反点数が累積していると引き継いでしまう
- 7.債務
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- 新規許可:考えなくてよい
- 譲渡譲受:契約で謳ったとしても、現実問題、様々な債務を引き継ぐことになる可能性がゼロではない
- 8.申請書作成の難易度
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- 新規許可:新規許可を基準に譲渡譲受を右に比較記載
- 譲渡譲受:譲渡譲受の方が譲渡側の情報を記載する分大変
- 9.許可番号
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- 新規許可:新しい許可番号が付与される
- 譲渡譲受:譲渡側の元の許可番号が引き継がれる
譲渡譲受認可をする場合の実務上の注意点
譲渡譲受は認可が下りてから、スムーズにいろいろなことを引き継がなくてはなりません。
以下のこともしっかり準備して、すぐに対応できるようにしておきましょう。
実務上の注意点
- ・関係者への事業譲渡の案内状送付
- ・任意保険の切り替え →損害保険会社の担当者と打ち合わせしましょう。
- ・ETCセットアップ →ETC販売会社担当者と打ち合わせしましょう。
- ・車両リース契約の承継 →ディーラーに依頼しましょう。
営業ナンバー許可の売買価格はいくらが妥当なの?
営業ナンバーの売買価格には相場があるのでしょうか?
最初に言ったように、今の時代、要件さえ揃えば許可を取ることはできます。
仕事と車、ドライバーがいて、利益を出している会社から、それらをすべてもらうということであれば、その利益や役員報酬等から適正に算出した金額を支払うべきでしょう。
たとえば、役員報酬+純利益が年間3000万円の会社を、その3年分の9000万円で購入する、というのはある程度の妥当性がある数字でしょう。
しかし、それは「未来に獲得できる利益」に対して対価を払うだけのことで、「許可自体」に対価を支払うわけではありません。なぜなら、許可自体はなんの価値もないからです。
ある会社から仕事もドライバーもなにも引き継がないのであれば、許可に300万円を支払うというのは、とてももったいないことです。
まとめ
譲渡譲受の手続き上のメリットは、少しだけ認可が下りる期間が短くなるかもしれないことと、必要な残高証明が少しだけすくなくなる、ということです。
結局、法令試験は受けなくてはなりません。
トータルすると、そのような微々たるメリットで判断するようなものではなくなっています。
個人から法人成りや、車両・施設をそのまま引き継ぐ場合など、許可及び事業が本質的に移行されるべき場合は、譲渡譲受認可申請が良いです。
許可自体を求めるという動機であれば、きれいさっぱり新規許可を取得するのがオススメです。