業務の記録と乗務の記録の違い | 運転日報、乗務記録、運送事業
俗に運転日報と言われる「乗務等の記録」であったものが、令和5年4月1日の改訂で「業務の記録」となったことは、まだほとんどの人が認識していません。なぜ乗務等が業務となったのか、変更点、対応しなければならないことを解説していきます。
【トラサポ主宰】運送業専門行政書士「行政書士鈴木隆広」 神奈川運輸支局前、一般貨物自動車運送事業一筋16年の行政書士。平成30年1月には業界初の本格的運送業手続き専門書籍「貨物自動車運送事業 書式全書」が日本法令から出版される。【本部:神奈川県横浜市都筑区池辺町3573-2-301】業務の記録とは
今回の改正で「乗務等」が全体的に「業務」となりました。
貨物自動車運送事業輸送安全規則の点呼箇所(第7条)を見てましょう。
(旧)バージョン
- 第7条(点呼等)
第七条 貨物自動車運送事業者は、事業用自動車の乗務を開始しようとする運転者に対し、対面により点呼を行い、次に掲げる事項について報告を求め、及び確認を行い
(新)バージョン
- 第7条(点呼等)
第七条 貨物自動車運送事業者は、事業用自動車の運行の業務に従事しようとする運転者等に対して対面により、又は対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法により点呼を行い、次の各号に掲げる事項について報告を求め、及び確認を行い
このように、「乗務等」だった箇所が「業務」に変更されています。
同様に第8条も、もともと「乗務等の記録」とあったものが「業務の記録」に変更となりました。
(旧)バージョン
- 第 8 条 (乗務等の記録)
1.乗務等の記録は乗務員の乗務の実態を把握することを目的とするものであるから、事業者に対し、次の要領で記録し、過労の防止及び過積載による運送の防止等業務の適正化の資料として十分活用するよう指導すること。
(新)バージョン
- 第 8 条(業務の記録)
1.業務の記録は運転者等の業務の実態を把握することを目的とするものであるから、事業者に対し、次の要領で記録し、過労の防止及び過積載による運送の防止等業務の適正化の資料として十分活用するよう指導すること。
条文の見出しまで変わってしまいました。なにげにインパクト大きい改正となっています。
貨物自動車運送事業輸送安全規則では「乗務員」という言葉は残っていますが、「乗務」単体の言葉はほとんどなくなってしまいました。
なぜ「乗務等」が「業務」になったのか
今回の令和5年4月1日の改正は、別に点呼や運転日報に関わるところをメインに行ったわけではありません。実は貨物自動車運送事業輸送安全規則の第3条の2に「特定自動運行保安員」についてのルールが新設されたことが原因となっています。
第16条にて「乗務員」というのは「貨物自動車運送事業者の運転者及び事業用自動車の運転の補助に従事する従業員」と規定されています。つまり、乗務員(トラックのイスに座る人)は運転者と助手席に乗る作業員を主にイメージされているわけです。今まではいろいろなルールについて実際にトラックに乗車する運転者と作業員だけが想定されていたのですが、第5条の2で「運転者又は特定自動運行保安員」が「運転者等」とされ、以降の条文でも点呼や運転日報の対象に加えられました。運転者と作業員の他に特定自動運行保安員も登場した、というように理解しましょう。
つまり、トラックに「乗務」する人以外であり、営業所から遠隔操作する人もトラック運行に関わるようになったので「乗務」でなく「業務」という言葉になったということです。
特定自動運行保安員とは?
さきほどから特定自動運行保安員という人が出てくるようになりました。ではこの人はなにをする人なのでしょうか?
昨今、自動運転車に移行する流れがあるのはご承知の通りでしょう。バスでは地域を絞って実証実験が繰り返されていますし、トラックというか小さい自動運転車で荷物を搬送する実証実験もされています。
トラックでも自動運転車を想定して、「特定自動運行保安員」についてのルールが制定されたというわけです。
自動運転のレベル4は無人運転を想定しています。もともとは自動運転のために道路交通法が改定された流れで、運送業法にも影響が来ているわけです。レベル3は自動運転と言っても、運転者は車に乗車しており、なにかあった場合はその運転者が対応します。しかし、レベル4は運転者の乗車が前提とされていません。そこでレベル4以上の運行を行うためには「特定自動運行実施者」(特定自動運行保安員とは違いますよ)として公安委員会の許可を得なければならない、ということになったのです。
レベル4の自動運転で想定されるのは「高速道路での自動運転」「高速道路での隊列運行」「地域限定での無人自動運転配送サービス」などです。
自動運転を実現する役割の中で、特定自動運行保安員は、なんとなくイメージで言うと「自動運転車の操作補助をする人」です。自動運転車の中でラジコンの操縦機を持ってる人、遠隔地から操縦する人がそれにあたります。
それらの人に対しては、運転者と同様に対面または適法な遠隔点呼により、乗務前点呼と乗務後点呼をする必要があります。特定自動運行保安員については点呼時の飲酒チェックは課せられていません。ただし、第3条により、「貨物自動車運送事業者は、酒気を帯びた状態にある乗務員等を事業用自動車の運行の業務に従事させてはならない。」とされています。
なお、1人の特定自動運行保安員が複数台の特定自動運行事業用自動車の運行の業務に従事することとして差し支えないとされています。
特定自動運行保安員も常時選任運転者と同様、「日々雇い入れられる者、二月以内の期間を定めて使用される者又は試みの使用期間中の者(十四日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)」は選任できません。適性診断と特別な指導は課せられていません。(令和5年4月1日時点)
運送事業者が対応しなければならないこと
レベル4以上の自動運転トラックを導入する事業者限定の制度の割には、貨物自動車運送事業輸送安全規則の変更部分がものすごい量になりました。現実は自動運転トラックを導入する会社など、日通、西濃などのごく一部でしょうからみなさんが覚える必要はありません。
ただ、運行管理規程については「乗務等の記録」が「業務の記録」というように用語が法令レベルで変更になってしまったので、細かく言えば自社の運行管理規程を全面刷新しなければならないことになるでしょう。※詳しくはトラック協会適正化実施機関や運輸支局整備保安担当にお問合せ下さい。
まとめ
単純に「乗務等」が「業務」に変更したわけではなく、自動運転に備えて「特定自動運行保安員」という自動運転車をラジコンのように操作補助する人が登場したことを原因として、言葉が変わりました。ほとんどの運送事業者は気にする必要ありませんが、運行管理規程はこの改定に対応したものがトラック協会で提供するようになったら早めに入手するようにしましょう。
特定自動運転保安員の業務(詳細:おまけ)
「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」よりそのまま転載します。
第3条の2 特定自動運行保安員の業務等
1.第1項関係
本項の趣旨は、運転者が存在する場合と同等の輸送の安全等を確保しつつ、特定自動運行貨物運送を行うために必要な基本的措置を規定するものである。
2.第2項関係
特定自動運行貨物運送を行う事業者は、自らの責任の下、運転者が乗務している場合と同等の輸送の安全等を確保することが求められる。したがって、特定自動運行貨物運送を行う場合にあっては、以下の事項が遵守されるよう事業者に対し指導すること。
(1) 貨物の安全確保に係る措置
貨物の積載方法については第5条の規定を遵守することが求められるが、特定自動運行事業用自動車の運行中において、偏荷重又は貨物の落下等、貨物の運送に支障が生ずる事態が発生した場合に対応できるよう、当該貨物の積み直しを行うことができる体制を整える必要がある。
(2) 遠隔監視業務等を外部委託する場合の措置
事業者が、法第29条の規定に基づき、特定自動運行事業用自動車の運行の管理や遠隔監視等を外部委託する場合においても、委託元である事業者(以下本規定において「委託者」という。)には、関係者の責務及び役割の分担を明確化した上で、特定自動運行貨物運送を実施する体制を構築することが求められる。このため、外部委託を伴う特定自動運行貨物運送を行う場合にあっては、委託者及び受託者に対し、以下の事項を遵守させる必要がある。
イ 委託者は、特定自動運行事業用自動車の運行に関する状況を遅滞なく、かつ、適切に把握・判断し、必要な指示を行うことができる体制・設備を整備すること。
ロ 受託者は、運行中断・事故発生時等、委託者の指示が必要となる場合において、遅滞なく委託者に指示を仰ぐことができる体制・設備を整備すること。
ハ 受託者は、委託者との間で締結した特定自動運行事業用自動車の運行の業務に係る契約に基づく貨物の積み直しや事故時の初動対応等の定型業務を除き、特定自動運行事業用自動車の運行の業務に係る判断及び対応を行わないこと。
ニ 委託者及び受託者は、緊急時にも確実な指示のやり取り等が行えるよう、双方間における連絡系統に冗長性を持たせるものとし、かつ緊急時の連絡方法等について予め定めておくこと。
(3) 同時に対応すべき事象が発生した場合の体制
特定自動運行事業用自動車に不具合が発生した場合にあっては、特定自動運行保安員が運行の業務に従事する当該特定自動運行事業用自動車を含む全ての特定自動運行用事業用自動車の運行を一律に停止させる必要がある。一方、第3条 1.(2)のとおり、1人の特定自動運行保安員が複数台の特定自動運行事業用自動車の運行の業務に従事することも可能としているが、例えば、以下のような事例においては、関係する特定自動運行事業用自動車の運行を一律に停止するための措置を講ずる必要はないことに留意されたい。
<事例>
特定自動運行保安員A及びBの2者を選任し、それぞれが複数台の特定自動運行事業用自動車の運行の業務に従事している場合において、特定自動運行保安員Aが運行の業務に従事する特定自動運行事業用自動車のうち、一部の特定自動運行事業用自動車に不具合が発生し、業務が適切に行えない場合であって、同時に対応すべき事象が発生した場合に、不具合等が発生していない他の特定自動運行事業用自動車の運行の業務を特定自動運行保安員Bに安全に引き継ぐことができるとき。
3.第4項関係
第5号に基づく点検の項目は、次に掲げるものであること。ただし、※の項目は、エアブレーキを採用している車両に限る。
○ブレーキの効きが十分であること。
○タイヤ空気圧が適当であること。
○灯火装置及び方向指示器の点灯又は点滅状態が不良でないこと。
※空気圧力の上がり具合が不良でないこと。
※ブレーキバルブからの排気音が正常であること。
なお、これらの項目について、遠隔での点検が可能な設備が備わっている場合には、当該設備を使用した点検を行うこととして差し支えない。