2024年4月~トラック最高速度90キロ解禁! メリット・デメリットや経緯を解説【お気楽コラム】
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現在の道路交通法では、自動車の最高制限速度は一般道では60km、高速道路では100kmとされています。これまでは中型・大型のトラックの制限速度は最高で80kmでした。2024年2月27日より政府では道路交通法の一部を改正し、トラックの最高制限速度を現行の80kmから90kmに引き上げることとし、4月1月よりその法律が適用されます。今回は、トラックの制限速度が10km緩和されたことによる業界の反応やメリット・デメリット、議論の経緯について解説します。
トラックの最高速度が90キロに緩和された背景とは
最高速度は制限速度ともいわれ、道路交通法22条で定められているものです。これまで厳しかったトラックの最高速度が80kmから90kmに緩和された背景は、「物流の2024年問題」を見据えたことが要因となっています。
物流の2024年問題とは、簡単にいえば働き方改革の一環です。これは、長時間労働が当たり前となってしまっているトラックの運転手の労働時間の課題を解決するために、年に960時間という上限を設けるという内容となっています。
ただし、近年ではトラックの運転手は慢性的な人手不足となっているという問題もあり、規制を設けることによって下記のような問題も懸念されています。
・一日に運搬できる荷物の減少
・運搬量減少に伴う運送業界の売上や利益の減少
・荷物の到着の遅延
トラックの最高速度を緩和することによってトラックの到着速度が速くなり、業務効率化を図ることができるでしょう。トラックの最高速度の緩和は、このような「運送業の2024年問題」を少しでも解決に近づけるために役立つはずです。
最高速度90キロに緩和されるトラックの車種とは
今回の法改正によって制限速度が90kmに緩和されるトラックは、車両総重量が8トン以上の大型・中型トラックです。どのような車種が対象となるのか、具体的に見ていきましょう。
大型貨物自動車
「大型トラック」と呼ばれる大型貨物自動車は、今回の法改正で緩和の対象となりました。この法改正で着目されたのは業務効率化だけではありません。
そもそも、大型貨物自動車に80kmの制限速度が設けられていたのは、トラックの事故防止のためというのがひとつの理由となっていました。規制が緩和されるとはいっても、速度抑制装置は現行のまま義務づけられており、撤廃などはありません。
大型貨物自動車の90kmまでの規制緩和は、現時点で安全性に大きな影響がないと判断され、今回の規制緩和に踏み切っています。
その一方で、トラックを小型の車両と同じ100kmを制限速度とするのは、安全面を考慮すると適切ではないため現時点では90kmと結論づけられました。
8トン以上の中型トラック
大型トラックだけでなく、8トン以上のトラックも最高速度を80kmから90kmへと緩和することが決定しています。ただし、大型トラックと同様に8トン以上のトラックには速度抑制装置をつけることを義務付けています。
これまでは高速道路では一般の自動車と比較して最高速度が20kmも差があったため、「トラックの運転が遅い」と周りのドライバーに思われることも多くありました。
しかし、法改正によって、運送業の2024年問題が起こったとしても一日の運搬量も増やせるだけでなく、高速道路でほかのドライバーのイライラも軽減できます。
運転でイライラしたりストレスが溜まったりすると事故につながりやすいため、そういった意味でも速度は上げながら事故軽減へとつなげることが期待できるのではないでしょうか。
トレーラー
大型貨物自動車の最高速度が80㎞から90kmに緩和されるのに対し、トレーラーなどの牽引する車種の最高速度は80kmのままと、今回の法改正での変更はありません。
今回の法改正でトレーラーが対象となっていない理由は、トレーラーは国の基準によって、走行試験を行っていないことが理由とされています。
走行試験は安全性を確認するためには欠かせないものであり、安全性を確認できていないトレーラーは、4月1日の法改正後も現行のまま80㎞を制限速度とする運びとなりました。
4割が反対したこの議論のこれまでの経緯や反応
この議論のこれまでの経緯については、運送業・一般の人を含め4割の人が反対していました。トラックの運転手の長時間労働を防止しながら円滑に荷物を届けられるメリットを持ちながらも反対派の意見が多かったのは、下記の理由からとなっています。
・追い越し車線を利用するなどマナーのない運転をするトラック増加の懸念
・トラックはほかの車両よりも大型で事故の被害も大きいため、最高速度を上げることによって、事故の増加や人的・物的被害などに大きな影響を与えることへの不安
・最高速度を緩和したことにより、「早く荷物を運べる」と考える顧客からの強い要望が増加する不安、また運送会社やトラックドライバーへの圧力などの負担が増加する懸念
この議論は運送業の2024年問題が起こることへの対策として進められ、実際に交通実態調査も行われました。その調査により、現在の中型・大型トラックが出している速度が87kmと、既に90kmに非常に近いスピードであることも判明しています。
この結果を受け、「有識者検討会」での複数回の議論により、トラックの最高速度を90kmに緩和することが決定されました。検討会に参加した有識者に含まれるのは、全日本トラック協会、国土交通省職員、大学教授などです。
最終的に有識者検討会では、運送業の2024年問題を考慮したうえで、90kmまで最高速度を緩和しても交通事故の増加には影響しないという結論となりました。
その一方で、90kmよりもスピードを上げると危険だという判断もあり、運送業の2024年問題に影響があるとしても、トラックがこれ以上スピードを出すことはできないとされました。
トラックの最高速度が変わることによる運送業界の反応は?
トラックの最高速度が変わることで、最も影響を受けるのは運送業界ですよね。それでは、運送業界の反応はどうなのでしょうか。
そもそも、トラックの最高速度が緩和された背景として、調査を行った結果「トラックの制限速度が90kmになっても事故に影響するとは考えにくい」と有識者検討会で考えられたからです。
なぜなら、最近は安全装置が装備された車両も増え、ドライバーのミスによる事故が減ってきているからです。
しかし、運送業界ではトラックの運転手がこれまで以上に慎重に運転しなければいけなくなり、「人間である運転手より荷物が優先なのか」とこの法改正を問題とする声も挙がっています。
確かに、法改正によって運転手の長時間労働は減りますが、それはこれまでより運転手にプレッシャーがかかることも意味しています。
トラックのスピードが上がることで、運転手の動体視力が狭まったり車体のコントロールがしにくくなったりし、ドライバーには技術力が求められるでしょう。
また、トラックのスピードが上がることによって、荷物を運んでいる途中での荷崩れなどのトラブルが起こることへの懸念もあります。
そのような状況でありながらも、現状を理解していない消費者から「荷物を早く持ってくるように」という要望が強くなる恐れもありますよね。
したがって、運送業界では労働時間に上限が設けられたからといって、良いことばかりではありません。
運送業界では個人や中小企業などを始めとし、近年倒産する企業も増加している傾向にあります。そのため、すべての運送業界が安全性の高い車両を購入する費用がある訳ではありません。業界のなかでは賛否両論が分かれ、生産性の向上につながるのではと期待をする声もあります。しかし、多くの運送業界の企業ではマイナス面の不安が大きいため、現状では「荷物が早く運べる」というメリットよりもデメリットを気にする会社の方が多いでしょう。
トラックの高速90キロ解禁とは
2024年4月以降、一部トラックの高速90キロ走行が解禁されます。
1963年に高速道路が開通して以降、大型トラックは80/km制限となっていましたが、物流業界から緩和してほしいという声が高まり、改正道交法が施行されました。
高速90キロを解禁する理由
トラックの高速90キロを解禁する理由は、「2024年の壁」と「物流業界の慢性的な人手不足」にあります。物流業界からの要望を受け、2023年7月、警察庁が有識者検討会を発足し、緩和に向けて動き出しました。
働き方改革により2024年4月以降、トラックドライバーの残業時間が制限されます。さらに、物流業界の慢性的な人不足問題が解決されないことから、少しでも影響を減らす目的で、施行されました。
大型トラックが絡む人身事故が減っていること。物流に携わるトラックには、最高速度を90/kmに抑える装置の装着が義務付けられていることから、安全面で問題ないと判断されたのも、解禁に踏み切られた理由です。
トラックの最高速度が90kmになるメリット・デメリットを解説
今回の法改正でトラックの最高速度が80kmから90kmに緩和されるにあたり、さまざまな議論が重ねられてきました。議論が複数回に及んだのは、メリット・デメリットの双方があるからです。
トラックの制限速度が緩和されるメリット・デメリットの両方について解説します。
メリット
トラックの制限速度が緩和されるメリットは、荷物の到着までの時間が短縮され、業務効率化につながることです。すべて一定の速度という訳ではありませんが、単純に時速80kmだったトラックが90kmになると、10km先まで進めることになりますよね。
ドライバーが早く荷物を届けることによって、長時間労働を少しでも削減できるでしょう。性能が良いトラックを購入すれば、交通事故も同時に減少させられるでしょう。
トラックの最高速度90/km解禁で、考えられる一番のメリットは、物を早く運べる点です。
これまで追い越せなかった車両を追い越したり、80/kmよりもスピーディに荷物を輸送したりできれば、目的地への到着を早められます。
また、働き方改革によってドライバー不足に陥ることが課題となっている「運送業界の2024年問題」には一定の効果が見込めるとされています。ただし、問題がすべて解消されるとは言い切れない点に注意しましょう。
さらに、業務が円滑に進むことによってドライバーの労働時間の削減につながり、居眠り運転や疲労による事故などを減らすことが可能です。しかし、80㎞と同じだけの量を積んでも荷崩れを起こさないかなど、考えなければいけない点は多いでしょう。
デメリット
運送業界のトラックの最高速度が90kmに緩和されることによって生じるデメリットは、ドライバーがこれまで以上に緊張感を持って運転をしなければいけなくなった点です。
トラックの運転手の長時間労働に上限が設けられることによって、業務による疲労などはある程度軽減されることが期待できます。
しかし、トラックの運転にこれまで以上に神経を使うことによって疲れが出てしまったり、顧客の要望が強くなったりする懸念から、心理的負担は増加するといえるでしょう。
実際に、速度が速くなることによって、これまで見えていた障害物の見落としなども発生する可能性は高いといえます。
安全面に考慮された車両の購入をする運送業者も増えたことを受け、法改正は一斉にスタートします。それでも注意しなければならないのが、対応がしにくい車種でもこの法律が適用されてしまうことです。
これまでよりも走行速度が速くなると、ハンドルを握るドライバーがプレッシャーやストレスを感じる恐れがあります。安全面に問題はない、という判断で施行される90キロ解禁ですが、不安を抱えているドライバーもいるようです。
80/kmの頃よりも早く輸送できるため、これまで以上に早スピーディな納品、遠くへの納品を求める荷主、元請け企業が増える心配があります。
速度が上がることで、これまでよりもトラックの燃費が上がるのでは、という点も指摘されています。交通事故が増える恐れなどを含め、運用後の見守りが必要です。
トラックの運転は技術が必要なものであり、これまでの慣れから新しい法律に対応するために体で慣れていかなければいけないなど、トラックのドライバーへのプレッシャーもかなり大きくのしかかってくるでしょう。
トラックの最高速度が10km緩和される効果のほどや期待度
トラックの最高速度が10km緩和されることに対し、「将来の輸送効率の向上」につながるのではないかとその効果に対して期待が高まっています。
もちろん、現状でも交通事故が問題となっており、最悪の場合預かった荷物の破損や死亡事故にもつながりかねません。
高速道路などでスピードを出すトラックに対して「怖い」と感じる人もいますが、最高速度が90kmとなったことに徐々に一般の人も慣れていくことにより、不安を感じる人も減少するでしょう。
目的地までの到着時間が早まることによって、これまで遠方で届けて欲しい時間に間に合わなかった急ぎの荷物でも、早く受け取りができるなどの期待がされています。
トラックの運転手不足という問題はありますが、長時間労働が減れば「トラックの運転手をやってみたい」と思う人も増えるのではないでしょうか。
トラックの運転手が増加したうえでこの法律が適用されれば、多くの荷物を待っている人に早く届けることが可能となります。
ネットで欲しいと思っている商品が希望の時期までに手に入ることによって、オンラインでの注文が増加するなど、運送業やオンラインショップの盛り上がりや売上・利益率アップにもつながる効果が期待できます。
高速道路ができてから初となる今回の速度見直しですが、効果が出るかどうかは分からない、というのが実情です。
高速道路上を走る大型トラックは、リミッターが90キロに設定されていることから、実勢(実際の速度)は87kmというデータがあり、大きな差は出ないのでは、という声が聞かれます。
将来的に100km解禁を目指し、より物流速度を上げる、という案もります。100キロまでスピードが上がれば、変化を体感できる期待があるため、その一歩と考えれば必要な改革といえます。
一方で、海外でもトラックの最大速度が90/kmに設定されているケースが多く、100/kmを本当に実現できるのか、という点は、まだ不透明です。
90キロ解禁で荷物の到着が早まった場合、トラック運転手が受け取る賃金が減るのでは、という不安もあり、今後も幅広い面で検証・検討が求められています。
90/km解禁について現役ドライバーの声
トラックの高速90キロ解禁を受けて、現役ドライバーはどのように考えているのでしょうか?
もともとは運輸業界から、輸送のスピードの短縮、労働生産性の向上につながるとして、検討が進められた今回の施策。ですが、ドライバー側からは、すでに実勢速度が87キロになっていることもあり。
「90キロが解禁されたのに、なぜ荷物がいつも通りにしか着かないのか」
といった声を荷主からかけられるケース、よりタイトなスケジュールが組まれるケースがあるのでは、といった心配の声が上がっています。
その他にも、安全性や賃金が上がらないことへの不安を抱えるドライバーが少なくありません。
有識者検討会でも、現行の時速80kmを指示した人が4割にのぼり、一般ドライバーからも追い越しや安全面での不安を感じる声が届いています。
法定スピードを上げるだけではなく、ドライバーが安心して働ける環境づくりが同時に求められているようです。
最後に
トラックの最高速度を90kmに引き上げる法改正は、まだ始まったばかりです。新しい法律は賛否両論の意見が飛び交うことが多く、今回の法改正もそのひとつなのではないでしょうか。
最近は多くの業界で「働き方改革」を行っていて、今回の法改正もそのうちのひとつです。しかし、労働時間の上限が設定されると、トラックの運転手がただ働きやすくなるというものにはならず、「運送業界の2024年問題」という新たな問題が起こっています。
今回は、その問題を受けてさらに法改正が必要となった、法改正に法改正を重ねた結果の対策です。
業務効率化や物流の生産性向上など期待などに期待が高まっていますが、実際に始まってみなければ物流業界全体にどのような影響があるのかはわかりません。
安全な運行ができるのか、どのくらい荷物の到着が早まるのか、ドライバーへの負担や燃料費が増えてしまわないか、といった部分は、まだまだ検討の余地があります。
運送業界では法改正によるドライバーの精神面のプレッシャーをケアするなど、自社で対策を立てることも必要となるでしょう。
物流業界がどう変わっていくのか、今後の動向に注視しながら、見守っていく必要がありそうです。
参考URL:
https://kuruma-news.jp/post/749010
https://www.ntt.com/bizon/d/00492.html
https://www.firstaccess.co.jp/fa-blog/archives/7480
https://www.fujibuturyu.co.jp/headlines/240115/02.html
https://sp.m.jiji.com/article/show/3127321
https://news.biglobe.ne.jp/economy/0401/pre_240401_3546206927.html
https://jafmate.jp/car/traffic_topics_20240308_1.html
Yahoo!ニュース/高速道路でのトラックの最高速度、4月から90km/hに引き上げ—人手不足で緩和
https://news.yahoo.co.jp/articles/8f9df785ba784392d127b1143f0e7cc2dc6c8975
Yahoo!ニュース/高速トラックが時速90kmに! 最高速度より「賃金」引き上げが先決だ
https://news.yahoo.co.jp/articles/e541b83d206d49a9fd4f9c009004304da2d4f081
朝日新聞デジタル/大型トラックの高速道路での最高速度、初めて引き上げ 90キロに
https://www.asahi.com/articles/ASRDP3K66RDMUTIL00Z.html
警察庁/第3回 高速道路における車種別の最高速度の在り方に関する有識者検討会 議事概要
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/saikousokudo231204_gaiyou.pdf
運輸新聞/高速道路での大型トラックの速度規制
https://www.unyu.co.jp/news/detail/id=323