一般貨物自動車運送事業の許可を取った後の帳簿、研修、禁止事項について
気になる法律
白ナンバートラックと比べると、一般貨物自動車運送事業の許可業者になることで特に下記の2つの法律を気にしなければなりません。
・貨物自動車運送事業法
・労働基準法
一般貨物自動車運送事業は貨物自動車運送事業法で定められていますが、それより先にドライバーを雇用する組織として労働基準法にも縛られます。
相互通報制度
労働基準法は当然、白ナンバーの会社でも当然関係ありますが、一般貨物自動車運送事業の許可業者では、労働基準監督局の監査を入り口にして、相互通報制度により運輸支局の監査が来ることもあります。
逆に、運輸支局の監査により、長時間労働が問題となると労働基準監督署に通報され、労働基準監督署からの監査が来ることもあります。
そのようなルールがあるので、一般貨物自動車運送事業の許可業者が最も気にしなければならない法律は貨物自動車運送事業法と労働基準法であるといえると思います。
そのような観点から、許可業者になったらやらなければいけない特に大事な点を解説します。
監査が来たら仕事できなくなることもあります
ルールを100%を守ることは難しくても、強い気持ちで90%はなんとかやり遂げようという気持ちが必要です。
そうでないと、適正化実施機関の巡回指導や運輸支局の監査によりナンバーを取り上げられたり、最悪の事態だと営業停止や許可取り消しという事態にもなりかねません。
一番怖いのは
「他の業者もやっているから」
「バレなければいいんでしょ」
という考えです。
どの業者も対面点呼なんてやってないよ、という声をよく聞きます。
でもそれはバレてないから問題になっていないわけです。
そのように言っていて、実際監査が入って車両が止められると、それまでから一転してものすごく後悔する社長に何人も会っています。
そこまで行くともはや改善したとしても、結局監査時点の違反は取り消すことができずナンバープレートを取り外され、仕事ができなくなります。
知らないままルールを違反したやり方で、事業を拡大しても、いざ「ルールを守ろう!」としたとき、そのやり方で会社が回っているのでほとんど直すことはできません。
許可業者としての義務
これから一般貨物自動車運送事業の新規許可を取得しようとしている事業者さんは、ぜひ初めから以下の義務を認識してから許可を取るようにしていただきたいです。
対面点呼
これは多くの事業者さんにとって大きなハードルとなります。運行管理者または運行管理補助者が乗務前と乗務後、対面にて点呼をしなければなりません。
すなわち直行直帰の仕事はできない、ということです。
泊り運行以外では電話点呼は認められません。
夜中の仕事でもこのルールは変わりません。
「夜中に運行管理者で対面点呼しようと思ったら、運行管理者が24時間寝ずに働かないといけないじゃないか」という理由は通じません。それは「やむを得ない場合」とは残念ながらならないのです。
運輸局は「では昼間の仕事だけで経営が成り立つようにしてください」と言うだけです。
今は、深夜に運行管理者補助者資格(NASVAの3日間基礎講習を受講)を持っている高齢者を雇って対面点呼している事業者さんも多くなってきました。そのようにして法律を守る強い気持ちが必要です。
帳簿関連
たくさんありますが、特に以下のものが必要ですのではじめから記録できるようにしてください。
・日報(乗務等の記録) ・・・毎日 ・点呼記録簿 ・・・毎日 ・車両日常点検票 ・・・毎日 |
これらが仕事をする日は毎日記録しなければならないものです。
オリジナルのものを作成してもよいですし、トラック協会で購入することもできます。
また、雇い入れたときの1回のみ
・運転者台帳 ・・・雇い入れたときの1回のみ |
を作成する必要があります。
細かくは運行管理規定など、これら以外にも必要なものもありますが、最も気にしなければいけないのは上記のものとなります。
社会保険、雇用労災保険関係
人を雇っていれば雇用労災保険の加入は当然ですし、法人は当然、社会保険の加入をしなければなりません。
白ナンバー事業者の場合は、正直規制する事業法がないので社会保険に入っていない場合もあるでしょうが、緑ナンバー事業者はそうはいきません。
社会保険に入っていないと緑ナンバーが付けられませんし、運輸開始後に雇ったドライバーさんについても社会保険に加入していなければ、巡回指導や監査のときに社会保険一部未加入として指摘されます。遅かれ早かれ必ず入らなければいけません。
労働時間
トラックのドライバーは厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」
基本的には
1日の拘束時間 | 原則13時間まで(週に2回までは16時間が許される。それ以外は実際には15時間までは許されるが、15時間超が3回以上は違反となる) |
1月の拘束時間 | 原則293時間(1年のうち6か月までは、1年間の拘束時間が3516時間(293×12月)を超えない範囲であれば、1月320時間まで大丈夫です) |
1日の休息時間 | 8時間以上(勤務と勤務の間は8時間以上空けなければなりません) |
連続運転 | 4時間まで。4時間を超える前に合計30分以上の休憩を取ることが必要。長距離運転の場合は要注意です。 |
1日の運転時間 | 2日平均で9時間まで |
運行時間 | 一回の運行における時間144時間まで(6日間)最初の勤務を開始してから最後の勤務を終了するまでの時間(ただし、フェリーに乗船した場合における休息時間は除く) |
休日労働 | 2週間に1度まで |
休日 | 少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません(労働基準法により) |
*「拘束時間」とは労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間を言います。それ以外を「休息時間」と言います。休憩時間は労働時間に含まれ、休息時間は労働時間以外の時間の事を言います。
*「休憩時間」とは待機時間とは違います。なにをしていても完全に自由な時間です。電話をしたら出なければいけない状況は「待機時間=労働時間」であり、休憩時間ではありません。 |
を守らなければなりません。
(本当はもっと細かいことがありますが、それは別で詳しく解説するとして、これから許可を取る人は最低でもこれらは意識しておいてください)
要するに、もし今白ナンバーでこれらに違反している仕事をしている人が緑ナンバーを取ると、ルール違反となり、法律を守ることがかなり難しくなります。
なんとかして、このルールの中で仕事がまわるような目途をつけてから一般貨物自動車運送事業の許可を取るようにしなければなりません。
研修
ドライバーに研修を受けさせなければなりません。
雇い入れたとき | NASVAの初任運転者適性診断 (過去3年以内に受診していれば不要です) |
雇い入れたとき | 15時間以上の講習と20時間以上の添乗等による実技指導(過去3年以内に他の緑ナンバー事業者で常時選任運転者として選任されていれば不要です) |
毎年 | 貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針で定められている12項目(平成30年3月時点)についての社内研修 国土交通省自動車総合安全情報のサイトが参考になります。 |
上2つは仕事が始まってしまうと、休ませて受けさせるのは大変なので、本格的に仕事が始まる試みの使用期間や研修期間のうちに済ませるのがよいです。
毎年の健康診断
毎年、健康診断を受けさせなければなりません。
深夜時間帯(夜10時~朝5時)の勤務があるドライバーは年2回受けさせなければなりません。
仕事を空けられないなどという理由は残念ながら運輸支局にも労働基準監督署にも通じません。
休日に休日出勤とし、給料と健康診断料を支払い、受診させるのが会社として求められることでしょう。
毎年の報告(事業実績報告書と事業報告書)
毎年、なんの問題なく仕事をしていたとしても2つの報告を運輸支局に提出しなければなりません。
事業実績報告書 | 前年4月1日~3月31日までの走行距離や輸送トン数、売り上げ等を7月10日までに提出 |
事業報告書 | 決算書内容を運送事業用に編集した報告書を決算期終了後100日以内に提出 |
法定3カ月点検
3カ月点検は法定点検です。
全車両が一度もやっていない場合、いきなり一発営業停止になります。3カ月点検は必ず実施して、点検記録簿を保管しておいてください。
2年に一度の運行管理者・整備管理者講習
運行管理者はNASVAにて2年に一度、一般講習を、整備管理者は2年に一度、運輸支局開催の整備管理者選任後研修を受ける必要があります。誰も通知してくれないので、自社で管理して忘れずに受けるようにしてください。
給与明細に残業代をしっかり記載する
歩合給で、一括表記で給与明細を作っている運送事業者さんも少なくありません。
未払い残業問題がどんどん大きくなっているので、少しめんどくさいかもしれません、会社を守るために毎月ちゃんと残業代も給与明細に記載してください。
過積載はしないこと
当たり前ですが、白ナンバーのときは普通にやっていたから、緑ナンバーになっても普通にやってしまう人もいるかもしれません。
緑ナンバーは白ナンバーに比べて罰則が大きいです。絶対にしてはいけません。
車庫飛ばしはしないこと
許可申請時に申請した車庫以外にとめて出発したり帰ったりしてはいけません。
たとえば、ドライバーの自宅が遠いからと行って、ドライバーの近くに車庫を借りてそこから直行直帰。
また、現場が遠いから、荷主さんの車庫を借りて認可を取らず毎日そこにとめてしまうなど。
明らかに法令違反です。
しっかりとドライバーさんが対面点呼の後に自社許可車庫から出発し、自社許可車庫まで戻ってきて対面点呼で終わるという範囲で仕事ができるようにしてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
「え、こんなにやらなければいけないの??」
というのが正直な感想だと思います。
しかし、軽井沢スキーバス事故から法令順守が毎年のように厳しくなっています。
運送業というのは社会のインフラとしてもものすごく重要な仕事なので、高いコンプライアンス意識を求められてきています。
実際、許可を取ったら全然大げさでなく、最低限これらのことは守らなければ、何十年と経営を続けることはできません。
イメージがわかないという場合は事前の開業コンサルティング(有料)も承りますのでお気軽にご相談ください。