非正規社員と正規社員の待遇格差についてまとめ:運送業同一労働同一賃金
2020年10月13日と15日に非正規従業員の待遇格差最高裁判決が行われます。
https://mainichi.jp/articles/20201009/k00/00m/040/178000c
そういえば2年前にも運送業界で同一労働同一賃金についてハマキョウレックスと長沢運輸の判決が出ていたのでまとめました。
退職後非正規社員 再雇用格差を容認(6月1日最高裁判決まとめ)
★ 最高裁の判断
大きな注目を浴びていた裁判について、最高裁の判決が出ました。
細かくは会社ごとの個別具体的な状況により違う判断となりますが、
「定年退職後の再雇用などで待遇に差が出ること自体は不合理ではない」
「年収など待遇全体で判断するのではなく、賃金や手当など個別の待遇ごとに判断する」
の2つが今回の大きな結果ということのようです。
全体的には高裁より原告側(非正規社員側)に傾いた判決になりました。
今回の判決は、今後の労使交渉の指針になるような判決となったようです。
各社は、就業規則の整理、定年後再雇用の際の労働条件、社員全体の各種手当の在り方について検討し、必要があれば変更することが求められます。
★ 労働契約法第20条
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
労働契約法第20条では正規社員と非正規社員の間に不合理と認められる待遇の差は認められない、とあります。
不合理となった場合、会社は損害賠償責任を負います。
不合理かどうかは
(1)仕事の内容や責任の程度
(2)転勤や昇進などの配置転換の範囲
(3)その他の事情
を踏まえて判断されます。
従って、差があることで即損害賠償というわけではなく、それが合理的に説明できるかどうかが判断基準となるというわけです。
たとえば「住宅手当」については、正社員は転職が想定されているということであれば、正社員のみに「住宅手当」があるのは不合理ではない、というのが今回の判決によって示されました。
逆に非正規社員に「皆勤手当」がないのは不合理だとされました。
この問題はこの労働契約法第20条から起こっています。
★ 格差が認められる範囲
定年後再雇用の嘱託社員と正社員で賃金体系が異なること自体は認められる。
つまり、同一労働同一賃金はいつでも適用されるわけではない、合理的な説明があれば同一賃金でなくてもいいということです。
ただし、正規・非正規それぞれの就業規則を作成していたり、様々な条件が必要であるし、嘱託社員だからといって即どんな賃金格差も認められるわけではありません。
今回、長沢運輸の場合は嘱託社員の年収を、退職前の79%確保していました。
それらの結果、「職務給」や「賞与」を支払わないことが不合理ではないという判断になったようです。
もしこれが退職前の60%の年収であれば結果は大きく変わったのでしょう。
手当については「住宅手当」「家族手当」は合理的な理由があれば、格差が認められるということでありました。
また、長沢運輸の判決の「職能給」の点について。
長沢運輸は、正社員に支給される基本給、能率給、職能給を、嘱託乗務員(非正規社員)の基本賃金、歩合給に対応させていました。
会社が職能給がない代わりに基本賃金額を定年時の基本給の水準以上とし収入の安定に配慮、歩合給で労務の成果が賃金に反映されるような工夫がなされていたために、嘱託乗務員に「職能給」がないのは不合理ではない、とされました。
嘱託乗務員の合計年収額は少ないですが、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始まで2万円の調整金も支給されていました。
これは素直な感想としては長沢運輸はどちらかというと嘱託乗務員のことを通常の会社に比べて、正規社員と比べてかなり公平に扱おうという姿勢が見えると思います。
「賞与」について、長沢運輸判決では、老齢厚生年金や調整金が予定され、年収も定年前の79%程度とされていたので、支払わなくても不合理手はない、とされました。
★ 格差が認められない範囲
今回、
「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「皆勤手当」「通勤手当」
については格差が認められない、となりました。
嘱託乗務員の時間外手当に精勤手当が含まれないのは不合理とされました。
政府は2016年12月に不合理な格差解消のための判断基準ガイドライン案を出しているので、運送会社の労務責任者は今回の判決とあわせて必読する必要があるでしょう。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf
★ 結局どうすればいいの?
今回の判決をそのままあなたの会社に適用することはできません。
長沢運輸の判決を見ればわかるように、現状どれだけ公平に扱っているかによって大きく対応すべき方法は異なります。
信頼できる社会保険労務士と相談し、各種手当と就業規則を中心に再整備をすることが必要と思います。
(参考)
日経新聞紙面
河北新報社説 https://www.kahoku.co.jp/editorial/20180602_01.html リンク切れ
産経ニュース https://www.sankei.com/affairs/news/180601/afr1806010019-n1.html
中國新聞 https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=436976&comment_sub_id=0&category_id=256 リンク切れ